
何もないところなのに転んじゃって、青あざ作っちゃったのよ…。
このようにスポーツをやっている場面でも、日常生活の場面でもケガをしてしまうアクシデントはしばしば起こります。ケガといえば骨折、脱臼、捻挫、打撲、肉離れなどなど、その程度は体にかかる負荷の強さや方向、体の状態によっても異なります。
ところで、アクシデントによりケガをしてしまった時の正しい処置をご存知でしょうか?これは主にスポーツ医学の世界で提唱されている処置法があるのですが、実はこの15年ほどでケガをした時の応急処置の常識が大きく変わってきました。

私は整体師なので、このようなケガや緊急事態の対応には弱い(もしくはケースによっては法律的に処置をしてはいけない)のですが、今回は知識の提供という目的で時代と共に進化してきた3つの処置法を解説します。なお、今回の記事は以下の動画の内容を含みます。
時に医療機関を受診せずに「自然治癒力に任せる」という方もいらっしゃいますが、「明らかにめっちゃ腫れてる」「何もしなくても痛くてたまらない」など骨折や脱臼が疑われる場合は整形外科(医師)や接骨院・整骨院(柔道整復師)を速やかに受診するようにしてください。緊急時の対処の如何によって、ケガの回復具合、そして回復後の体の状態に大きな影響を与えます。
基礎知識:ケガをしたら現れる5つのサイン
約2000年前の古代ローマで活躍した医師ガレノスが発見した5つの危険サインは、現代医学でも炎症の基本として教科書に載っていて使われています。まずはこの不朽の知恵を分かりやすく解説します。
ガレノスの5兆候(炎症の5兆候)とは
ガレノスの5兆候(炎症の5兆候)は以下のものを指します。
- 発赤(赤くなる):患部が赤くなる
- 腫脹(腫れる):患部がパンパンに膨らむ
- 熱感(熱くなる):患部を触ると熱い
- 疼痛(痛む):ジンジン・ズキズキと痛む
- 機能障害(動かせない):関節が固まり、動かすと痛い。

まずはこの5兆候が出たら医療機関を受診するのをおすすめします。この5兆候は患部に何らかの異常が起き、回復に向けての初期反応が起きている証拠でもあります。
炎症の5兆候のメカニズムと意味
炎症の5兆候が起きるメカニズムや意味を理解すると精神的に安定する面もあるかと思いますので追記しておきます。
ケガをした部位(患部)では組織が損傷し、ケガをした組織を取り除いて新しい組織を構築しないといけません。そのためにはケガをした組織を取り除く免疫細胞や、新しい組織を構築する材料(タンパク質などの栄養素)を患部に運ばなくてはなりません。これらを達成するために血流が増加します。

このように血流が増加するので発赤(赤くなる)・腫脹(腫れる)・熱感(熱を持つ)が起きます。 また、組織損傷によって痛みを感じさせる発痛物質が大量に放出されるので疼痛(痛みが出る)を感じます。さらにこのような状況下で患部を動かすと組織損傷がより悪化する(傷口がさらに広がるようなイメージ)ことになりかねないので、動かしにくい・動かせないといった機能障害が起きます(実際には動かすことはできますが、動かすのは危険です)。
炎症の二面性
ここまでお読みの方はケガをした直後から起きる炎症とは、回復の初期段階であることがお分かりになると思います。
そして損傷した部位に血流が増加することで「免疫細胞が集合する」「修復に必要な栄養素が集まる:「余分な老廃物を洗い流す」ことが起きることは事実ですが、ただし、過剰に炎症反応が起きると「腫れが強くなって神経を圧迫して激痛が起きる」「関節可動域が極端に制限されて治った後も固くなる」といったデメリットも生じます。
つまり、炎症反応には諸刃の剣という二面性があるのです。炎症反応は回復の初期段階なので起きなければ困りますが、起きすぎでも困るという反応でもあります。ところで、炎症反応が過剰になる背景にはさまざまなものがありますが、その背景を考えるための動画として以下のものがあります。
また以下の関連記事でも炎症時の対応について言及しています。今回の記事と合わせてお読みいただくとより理解が深まると思います。
前置きが長くなってしまいましたが、ここからが本記事の本番です。
時代を刻む処置法の進化史
ケガをした時の応急処置はここ15年ほどで大きく変わりました。ここからは歴史を遡るように最初にご紹介していきます。応急処置の教科書的な存在は今から約50年前に誕生しました。
1978年誕生|RICE処置の光と影
RICE処置の生みの親はスポーツ医学の権威とも言えるDr. Gabe Mirkin氏です。RICE処置とは以下の頭文字を取ったものです:
- Rest:安静にする
- Icing:冷やす(寒冷療法)
- Compression:圧迫する
- Elevation:挙上する

しかし近年、Mirkin博士自身が「過度な安静と冷却が治癒を遅らせる」と指摘しました。例えばサッカー選手の足首捻挫で3日間完全安静にすると、関節可動域が最大27%減少するという研究結果も報告されました。そして2010年代に革命が起こります…。
2010年代の革命|POLICE処置
「安静神話」を打破したのがPOLICE処置です。これは以下の頭文字を取ったものです。
- Protection:患部を保護する
- Optimal Loading:最適な負荷を加える
- Icing:冷やす
- Compression:圧迫する
- Elevation:挙上する

Protection(患部の保護)とOptimal Loading(最適負荷)を追加したこの方法、実は明確な提唱者がいないとされています(*私の調査が甘いのかもしれません)。現場のトレーナーたちが自然に生み出した”現場の知恵”とも言えます。RICE処置からPOLICE処置からの具体的な変化点は:
- 受傷48時間後から患部を動かす
- アイシング時間を15分→10分に短縮
- 包帯固定時に「少し動かせる余裕」を確保
などですが、もちろんケガの程度などによって対応は変わります。思い返せば、このPOLICE処置が提唱された2010年頃からぎっくり腰などでも「動ける範囲で動きましょう」と言われ出したように思います。ぎっくり腰はケガとは異なりますが、「過度な安静が回復をかえって遅らせる」という認識が普及したように思います。
2020年最新|PEACE&LOVE処置
カナダの理学療法士Blaise Dubois氏とJean-Francois Esculier氏が提唱した最新メソッドがPECE&LOVE処置です。これは以下の頭文字を取り、時期も2段階に分けています。
受傷から72時間(3日間)まではPEACE
PEACEとは:
- Protection:患部の保護
- Elevation:挙上
- Avoid Anti-inflammatories:過度な抗炎症回避
- Compression:圧迫
- Education:教育
受傷から72時間(3日目)以降はLOVE
LOVEとは:
- Load:負荷を加える
- Optimism:ポジティブ思考
- Vascularisation:血流を促す(有酸素運動など)
- Exercise:エクササイズ
PEACE&LOVEの特徴
PEACE&LOVE処置には従来の常識を覆す2つの特徴があります:
- 抗炎症薬NG:炎症を「治癒のサイン」と解釈し、過度な抗炎症をNGとしました。
- アイシングは慎重に:ケガをした直後の急性期初期、特に最初の12時間以内はアイシングを行います。
とは言え、ケガの程度などによって対応は変わるのですが、従来のRICE処置・POLICE処置とは異なる考えを取り入れているのは事実です。また、“PEACE&LOVE”というネーミングは、従来の炎症を「敵視する」という考え方に対し、炎症との「和解」を表現しているそうです。

実践的チェックリスト
従来のRICE処置から、革命を起こしたPOLICE処置、そして最新のPEACE&LOVE処置までご紹介してきましたが、以下にケガをしてしまった時の処置法と時期のチェックリストを書いておきますので目安としてお使いください。

1. 受傷直後(0〜72時間)の処置選択
- 変形や激痛がある場合:医療機関を即座に受診を。
- 軽度の腫脹がある場合:PEACE処置を。12時間以内であればアイシングも。

ただし、軽度の腫脹であっても患部の保護には専門知識と技術が必要なもの。不安な場合は医療機関を受診しましょう。
2. 回復期(受傷から4〜14日)の処置選択
- 可動域訓練を開始
- 低負荷の運動導入
- 温熱療法の併用

ケガの程度によっても負荷の量などが変わりますが、基本的に痛くない範囲で行うことになると思います。この辺りも不安であれば医療機関で指示を仰ぐようにしてください。
まとめ|ケガとの向き合い方が変わる時代へ
「ケガをしたらすぐ冷やして安静に」という常識は、もう古い時代のものです。現代医学では「炎症を味方につける」「早期から体を動かす」という新時代に突入しています。大切なのは次の3つのポイントです。
- 時期を見極める:急性期(3日以内)と回復期で対応を切り替えましょう
- 炎症を恐れない:赤みや腫れは治癒のサインと捉えましょう
- 個別対応:年齢・生活環境に合わせた処置をしましょう(専門家の指示を仰ぎましょう)

次回予告|アイシング論争の真実に迫る!
ところで現在でも赤くなって熱を持ち、腫れている部位を冷やす方は多いと思います。

しかし、最新のPEACE&LOVE処置では患部を冷やす寒冷療法(アイシング:Icing)は完全否定ではないものの、限定的に行うことが基本となっていますなっています。このような「冷やすべきか?温めるべきか?」という論争は現在でもあるので、次回は賛否両論ある寒冷療法についてをお伝えしていきます。
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この間、部活の最中に足首をグネッちゃった…。