20代・30代のころに当たり前にできていた動きが、年々難しくなってくる。しゃがむのがつらくなった、脚が上がりにくくなった、ゴルフや水泳のフォームが崩れてきた…そんな体験をされている方は少なくないと思います。
しかし、加齢現象を学び、体の中でどんな変化が起きているのかを正しく理解すると、「加齢による柔軟性の低下は、ある程度は対処できる変化である」ということが分かります。
今回は、加齢が体の柔軟性に影響を与える仕組みを複数の視点から解き明かし、科学的なエビデンスに基づいた対策もご紹介します。
そもそも、「柔軟性」とは何か
体の「柔らかさ」を表す指標として、医療・リハビリ現場でよく用いられるのが関節可動域(ROM:Range of Motion) です。これは関節がどの方向にどのくらいの角度まで動けるかを示したもので、日本リハビリテーション医学会・日本整形外科学会などが定める「参考可動域」という基準値が一つの目安とされています。

ただし、この値には「年齢・性別・姿勢・個人差による変動が大きいため、あくまで参考値である」という注記がつけられています。「この角度を下回ったら問題」ではなく、「多くの人がだいたいこのくらい動ける」という目安のものさしだとお考えください。
では、この関節可動域は何によって決まるのでしょうか。一般的には次のような要素が複合して影響しています。
- 筋肉・腱の物理的な長さや弾力性
- 関節包(関節を包む袋)・靭帯の状態
- 過去のケガ・炎症による組織変化
- 骨格の形状(股関節の向きや大腿骨の角度など)
- 神経系による筋肉の緊張コントロール
- 自律神経や感情・ストレスの影響
これらのうち、特に①②については「成人後、年齢とともに変化する要素」です。
なぜ年を取ると体は硬くなるのか——3つのメカニズム
加齢による柔軟性の低下は、一つの原因だけで説明できるものではありません。ここでは特に重要な3つのメカニズムをご紹介します。
メカニズム① 筋節(サルコメア)の数が減っていく
筋肉には「筋節(きんせつ)」と呼ばれる最小の構造単位があります。

筋節を細かく見ると、アクチンフィラメントとミオシンフィラメントという2種類のタンパク質が規則正しく並んだ構造で、筋肉が縮んだり伸びたりするときの「1コマ」の動作を担っています。
そして、この筋節が縦方向(直列)に多く並ぶほど、筋肉はより長く伸びることができます。詳しくは前回の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。
関連記事:筋トレ=体が硬くなるは本当?|筋肉の構造から紐解く柔軟性の科学
加齢で直列サルコメアが減る
加齢に伴い、この直列方向の筋節数(直列サルコメア数)が減少することが示唆されています。
研究では、高齢者(70〜81歳)の腓腹筋(ふくらはぎ)の筋束長が、若年者(27〜42歳)と比べて約10%短いことが確認されています。これは直列サルコメアの減少を反映している可能性があると考えられています。
また2023年の総説論文では、加齢に伴い筋幹細胞(衛星細胞)の働きが低下し、新しいサルコメアを作り出す力が弱まることが加齢性の筋変化の一因として報告されています。
筋節を「バネ」に例えると、加齢によってバネの数が減り、以前ほど伸びなくなるイメージです。
メカニズム② 結合組織が増え、筋肉が締め付けられるようになる
筋肉の中には、筋線維(筋細胞)だけでなく、筋線維を包む「結合組織(けつごうそしき)」という成分があります(専門的には細かく分類されますが、一般的に筋膜と呼ばれるものです)。


コラーゲンを主成分とするこの組織は、筋肉全体をつなぎ留める「ラップ」のような役割を果たしています。
なぜ結合組織が増えるのか
九州大学の研究チームが2023年に発表した研究では、加齢に伴いHGF(肝細胞増殖因子)というタンパク質がニトロ化(酸化の一種)されて正常に機能しなくなると、コラーゲンを産生する線維芽細胞の増殖が抑制されなくなり、結合組織が過剰に増加するという仕組みが明らかになりました。
つまり、加齢によって「筋肉を柔らかく保つブレーキ」が利かなくなり、結合組織が増えやすくなるというわけです。結合組織が増えすぎると、筋肉を外から「締め付ける」状態に近くなり、筋肉が伸びにくくなります。
メカニズム③ 腱のコラーゲンが変化する
筋肉と骨をつなぐ「腱(けん)」もまた、加齢とともに変化します。
腱の強度を支えているのはコラーゲン分子同士の「架橋(かきょう)」という結合ですが、加齢とともにこの架橋の性質が変化することが確認されています。
ヒトの膝蓋腱を調べた研究では、高齢者は若年者と比べてコラーゲン濃度は低いものの、特定の架橋(ピリジノリン・ペントシジンなど)が有意に多いことが示されています。


ただし、この変化が腱の硬さにどの程度影響するかは、架橋の種類や組み合わせによって複雑であり、現在も研究が続いている分野です。「コラーゲン架橋が増えると腱が必ず硬くなる」とは一概には言えない側面もあります。
腱は「ゴムひも」のようなものです。加齢によってそのゴムの成分が少しずつ変化し、伸びにくくなる可能性があります。
構造だけが柔軟性を決めているわけではない
ここまで3つの構造的な変化をご紹介しましたが、大切なことをお伝えしたいと思います。


関節の動く範囲(可動域)は、構造だけで決まっているわけではありません。
たとえ構造的な変化が少なかったとしても、以下のような要因が重なると柔軟性は低下します。
これらについては別の記事でも詳しく解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。
加齢による柔軟性は諦めなくていい
ここまで加齢による体に構造的な変化と構造以外の柔軟性に関わる要素をお伝えしてきましたが、運動によって柔軟性を改善できる可能性があることが複数の科学的研究で示されています。
対策① ストレッチング
2024年に発表された研究では、地域在住の高齢者(平均73.8歳)を対象に10週間の静的ストレッチプログラムを実施したところ、足首の関節可動域が平均9度改善し、筋組織の硬さも有意に低下したことが報告されています。


さらに興味深いのは、可動域の改善は「筋肉の硬さの変化」よりも、「伸びを感じる感覚(ストレッチ耐性)の変化」との関連が強かったという点です。これは、ストレッチの効果の多くが神経系(脳や感覚)レベルの適応によるものであることを示唆しています。
さらに、週3回以上、1回30秒×複数セットというシンプルなプログラムでも、10週間継続することで高齢者に明確な変化が見られました。このことから「毎日長時間やらなければ効果がない」というわけではありません。
対策② 筋トレ(レジスタンストレーニング)
NSCA(全米ストレングス&コンディショニング協会)のポジションステイトメントでは、レジスタンストレーニングは85歳以上の超高齢者においても筋断面積を増やすことができると示されており、高齢者における筋機能の維持・改善に有効な介入として推奨されています。


また55研究・2756名を統合したメタアナリシス(詳しくは前回の記事をご覧ください)でも、外部負荷を用いた筋トレはストレッチングと同等の関節可動域の改善効果をもたらす可能性があることが示されています。
筋トレとストレッチは「どちらかが良い」というものではなく、組み合わせることで相補的な効果が期待できます。
対策③ 継続こそが最大の鍵
どちらの介入においても共通して言えることがあります。トレーニングを中止すると、改善した柔軟性が失われやすいという点です。
これは体が「使っていない動きは不要」と判断するホメオスタシス(生体恒常性)の働きによるものです。特定の期間だけ集中して取り組むよりも、無理のない範囲で長く続けることのほうが、長期的な柔軟性の維持・改善に有効と考えられます。
よくあるご質問
ここからはよくある質問に対する回答をご紹介します。これまでの復習代わりにもお読みください。


- 加齢に伴い筋束長が短縮し、直列サルコメア数が減少する可能性がある
Narici MV, Maganaris CN, Reeves ND, Capodaglio P. Effect of aging on human muscle architecture. J Appl Physiol. 2003;95(6):2229-2234.
https://doi.org/10.1152/japplphysiol.00433.2003 - 加齢に伴うHGFのニトロ化により線維芽細胞の増殖が抑制されなくなり、結合組織(筋膜)が過剰に増加する
Tatsumi R, Hara T, Yamamoto S, et al. Nitrosative stress impairs hepatocyte growth factor signaling to promote satellite cell-independent muscle hypertrophy in aging muscle. Aging Cell. 2023;22(10):e13952.
https://doi.org/10.1111/acel.13952 - 腱のコラーゲン架橋は加齢で変化するが、それが硬さに直接つながるとは一概に言えない
Svensson RB, Heinemeier KM, Couppé C, Kjaer M, Magnusson SP. Effect of aging and exercise on the tendon. J Appl Physiol. 2016;121(6):1353-1362.
https://doi.org/10.1152/japplphysiol.00328.2016 - 高齢者への静的ストレッチ介入(10週間)で関節可動域が改善し、組織の硬さも低下した
Ikeda N, Hashimoto H, Nakamura M. Chronic effects of a static stretching intervention program on range of motion and tissue hardness in older adults. Front Med. 2024;11:1505775.
https://doi.org/10.3389/fmed.2024.1505775 - 85歳以上の超高齢者においてもレジスタンストレーニングで筋断面積の増加が確認されている
Fragala MS, Cadore EL, Dorgo S, et al. Resistance training for older adults: position statement from the National Strength and Conditioning Association. J Strength Cond Res. 2019;33(8):2019-2052.
https://nsca-japan.or.jp/pdf/database/position-statement/ps_olderadults.pdf
関連記事
本記事では、加齢と柔軟性の関係を中心に解説しました。記事中でもご紹介しましたが、他の視点から柔軟性を考えた記事もありますので、ぜひあわせてご覧ください。
- 関連記事:「筋トレ=体が硬くなる」は本当?|筋肉の構造から紐解く柔軟性の科学
- 関連記事:体の柔軟性の決定権は「脳」にある|中枢神経系と安全マップの科学
- 関連記事:柔軟性向上に「泣くほどのストレッチ」は必要?痛みなく柔軟性を高める方法
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まとめ:加齢と上手に付き合いながら、体の動きを守っていきましょう
今回の記事でお伝えしたことを振り返りましょう。
「年齢のせいだから」と諦める前に、今の自分にできることを、無理のない範囲で続けること。それが、加齢とともに体の動きを守っていくための、最もシンプルで確かなアプローチだと私は考えています。
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最近、体が硬くなってきたような感じがする…昔はもっと体が動いたのに…