脊柱管狭窄症の基礎知識 〜その症状は本当に脊柱管の狭窄が原因なのか〜

腰狭窄さん

あ〜、歩いてたらまた足がしびれてきちゃった…。この足のしびれってしばらく休憩しないと取れないんだよなぁ…。脊柱管狭窄症せきちゅうかんきょうさくしょうって何とかならないものかねぇ…。

宮森

脊柱管狭窄症間欠性跛行かんけつせいはこう(歩いているとしびれが出てくるが休憩すると歩けるようになる症状)でお悩みのようですね。現段階では何とも言えないですが、症状自体は改善できるかもしれませんよ。

腰狭窄さん

え!医者には「狭窄症は治らない」って言われたけど、治る可能性があるんですか?それはぜひ教えてください!

宮森

確かに骨が変形してしまったり狭窄してしまったりした部分は手術でないと改善はできませんが、症状についてはその限りでなかったりします。とは言え、話すと長くなってしまうので今回はまず脊柱管狭窄症の基礎的なお話をさせてください。

脊柱管狭窄症とは

医学における診断名はシンプルなものが多く、脊柱管狭窄症せきちゅうかんきょうさくしょうもその1つです。「脊柱管」が「狭窄(狭くなった)」状態を意味しているのですが、一般の方には聞きなれない言葉であるため、よく分からないというのが正直なところだと思います。少しだけ用語の整理をした上で脊柱管狭窄症についてお伝えしていきます。

脊柱管とは

一般に言う背骨のことを専門用語(解剖学用語)で脊椎せきついと言います。脊椎は7個の頸椎けいつい、12個の胸椎きょうつい、5個の腰椎ようつい、そして骨盤の中央にある5つの仙椎せんついが癒合した仙骨せんこつに分けられます。ちなみに仙椎は概ね16歳〜20歳前半までに癒合して仙骨となり、その両側には恥骨ちこつ坐骨ざこつ腸骨ちょうこつが癒合して寛骨かんこつとなって骨盤を形成します。

脊椎は7個の頸椎、12個の胸椎、5つの腰椎、5つの仙椎が癒合した仙骨に分けられます。

脊椎は積み木のように積み重なっており、脊椎の前方部分の椎体ついたいの間にはクッションとなる椎間板ついかんばんがあります。一方、椎体より後方部分はさまざまな骨の突起があり、脊椎を動かす筋肉や脊椎を安定させる靭帯の付着部となっています。

そして椎体の後方部分には骨で囲まれた空洞があり、この空洞の中には脊髄せきずいという神経が収納されています。この脊髄を収納する空洞のことを脊柱管せきちゅうかんと言います。

腰椎の部分のより詳細なイラストです。椎体の後方部分にある脊髄を収納する空洞のことを脊柱管と言います。

脊柱管が狭窄する理由

脊柱管は脊椎の変形、周辺の靭帯の肥厚(分厚くなってしまう)、椎間板ヘルニアなどによって狭窄してしまいます。

左が健康な背骨で右が脊柱管狭窄症を起こしている背骨です。Spinal Stenosisは脊柱管狭窄症という意味です。

脊柱管狭窄症の背景として加齢(専門的には退行性変化たいこうせいへんかと言います)、仕事などによる負担、腰周辺の病気などにより、これらの変化が生じると言われています。そのため、脊柱管狭窄症は50歳代から徐々に増え始め、60〜70歳代に多く見られる病気です。

脊柱管狭窄症は脊柱管であればどこでも生じる病気ですが、基本的には腰椎で生じやすいため、その場合には腰部脊柱管狭窄症と呼ばれます。

なお、上記の通り脊柱管狭窄症は基本的に加齢による変化が基盤となっているため、脊柱管の変形自体は徐々に進行していきます。そのため、最終的には肥厚した靭帯を取り除くなどの外科的手術が選択されることがあります。

脊柱管狭窄症の症状

脊柱管が狭窄を起こし、その中に収納されている神経が圧迫されることで腰痛や足の痛み、しびれなどの症状が起こります。

脊柱管狭窄症による症状は脊柱管のどの部分が狭窄し、神経のどの部分が圧迫されるかによって体のどの部位に症状が現れるかが変わってきますが、一般的にはお尻や太ももの裏、膝裏、ふくらはぎ、足の甲や足裏に痛みやしびれが出る坐骨神経痛が多いとされています。

坐骨神経と支配領域のイラスト。坐骨神経にトラブルが生じるとこれらの領域に痛みやしびれ、脱力感などが生じます。

また、座っていたり立っていたりする分には大丈夫であっても、歩いてしばらくすると足のしびれが悪化し、座ったりしゃがみ込んだりして休憩するとしびれが消えて再度歩けるようになる間欠性跛行かんけつせいはこうという症状も脊柱管狭窄症でよく見られます。

歩行を継続すると痛みやしびれが出て休憩するとなくなり、再度歩けるようになる症状のことを間欠性跛行と言います。脊柱管狭窄症における典型的な症状の1つです。

同じような症状が生じる病気

脊柱管狭窄症以外の病気でも腰痛や足の痛みやしびれ、間欠性跛行などの脊柱管狭窄症と同じような症状が起こる病気があります。そのため、医療機関の各種検査で症状の原因を正確に調べることも重要です。同じような症状が起きる可能性のある病気として以下のものが考えられます。

脊柱管狭窄症と似た症状の出る病気

椎間板ヘルニア
脊椎の間にある椎間板が変性を起こして中身が飛び出して神経を圧迫する病気です。

動脈硬化症・静脈瘤など
血流が悪くなることで痛みやしびれが生じます。重症化すると足の切断や血管内にできた血の塊(血栓けっせん)が剥がれて飛んでしまうことで脳梗塞などの病気を引き起こす可能性があります。

糖尿病性神経障害
糖尿病で最も多く見られる合併症の1つです。神経が障害されることで足の痛みやしびれが生じます。

こんな症状があったら特に注意!

以前に腰痛をテーマにブログ記事を挙げた(ブログ記事:眠れないほどの腰痛に潜む命の危機 〜 Red Flag Sign〜)のですが、体からのサインを見逃してしまうと命に関わる病気が潜んでいる場合もあります。これをRed Flag Signと言います。

腰部脊柱管狭窄症では腰痛や足の痛み・しびれが主に生じますが、痛みやしびれが常にある場合、感覚の麻痺が重度な場合膀胱直腸障害ぼうこうちょくちょうしょうがい(排尿や排便のコントロールができなくなり、失禁や便秘になった状態)がある場合、明らかな脱力感・筋力低下がある場合はすぐに医療機関を受診した方が良いでしょう。

脊柱管狭窄症は治らないのか?

お伝えした通り、脊柱管狭窄症は加齢による退行性変化を基盤としているため、脊柱管の狭窄そのものは進行していきますし治ることはありません。

しかし、腰痛や足の痛み・しびれ、間欠性跛行といった症状自体が本当に脊柱管の狭窄によって生じているかは個人差があるため、筋肉のコリをほぐしたり、血流を良くしたり、姿勢や歩き方を工夫することによって改善する可能性があります。

脊柱管狭窄症と診断されたらこれをチェック

まずは皮膚分節ひふぶんせつdermatomeデルマトーム)と呼ばれるものを知っておくと良いでしょう。これを知っておくと、どこの脊髄神経で障害が起こっているのかが大まかに分かるようになります。

皮膚分節のイラストです。頸椎(C 赤色)、胸椎(T 青色)、腰椎(L 黄色)、仙骨(S 水色)から出てくる神経がどの部分の皮膚の感覚を支配しているのかが分かります。

実際には画像検査、理学検査、感覚検査、筋力検査などを行って原因を追究していくのですがまずは大まかに皮膚分節を利用してご自身の症状と照らし合わせてみましょう。

例えば、腰の上部から中央くらいまで(L1〜L4くらいまで)の脊柱管の狭窄であれば下腹部や腰、足の前側の痛みやしびれが生じるであろうことが予想されます。また、腰の中央から骨盤くらいまで(L4〜S2くらいまで)の脊柱管の狭窄であればお尻や足の裏側の痛みやしびれが生じるであろうことが予想されます。

赤矢印のある部分で脊柱管の狭窄が生じています。これはTh12-L1の部分の脊髄腫瘍、L3-L4とL4-L5の椎間板の膨隆が生じています。この画像だとどのあたりに痛みやしびれが生じると考えられますでしょうか?

医療機関で脊柱管狭窄症と診断された場合、医師に「どの部分が狭窄されているのか?」をしっかりと説明してもらいましょう。そしてその狭窄されている部分と自分の出ている症状の部位とが合致しているのかを皮膚分節を参考に照らし合わせてみてください。

時々、狭窄のある部位と症状のある部位が全く合致しておらず、脊柱管の狭窄を原因としない別の原因で症状が出ている場合があります。上述した通り、脊柱管狭窄症は中高年以上に多い病気であり、画像検査では症状と無関係であっても骨の変形が認められることがあります。

痛みやしびれは脊柱管の狭窄だけで生じるとは限らないため、まずはご自身の脊柱管の状態と症状を照らし合わせるようにしてみてください。

脊柱管狭窄症の一般的な治療法

脊柱管狭窄症には保存療法と手術療法の2つがあります。

①保存療法
局所麻酔剤などを注射する神経ブロック、鎮痛薬や血行を促進する薬などによる薬物療法、コルセットなどを装着する装具療法、腰回りの筋力を維持して症状を緩和するためのストレッチやリハビリテーションなどがあり、症状が軽い場合は保存療法で改善することもあります。保存療法を続けても改善しない場合や、症状が悪化して歩行や日常生活に支障を来たす場合には手術を検討します。

②手術療法
脊柱管狭窄症の手術には、主に脊柱管を圧迫している骨や椎間板、靭帯などを切除して脊柱管を広げて神経の圧迫を取り除く「除圧術」と、脊柱管を広げた後に金属やボルトで背骨を固定する「除圧固定術」があります。

日常で気をつけてほしいこと

一般的な脊柱管狭窄症の治療法について書きましたが、上述した通り筋肉のコリをほぐす、血流を良くするなどで症状が改善することは枚挙にいとまがありません(全部の症状を改善できるわけではなく、医療機関での対処が必要なケースももちろんあります)。

具体的な筋肉のコリのほぐし方やストレッチなどは今後ブログ記事としてご紹介していきますが、以下のようなポイントも日常で気をつけていけると良いと思います。

①良い姿勢の保持
一般的に腰を丸めるようにすると脊柱管狭窄症の症状が落ち着く方が多いですが、可能であれば背筋を伸ばし、腰を丸めすぎないように心がけましょう。また、長時間同じ姿勢でいることは避け、定期的に休憩を取ることも大切です。姿勢についても後日ブログでご紹介していきます。

②適度な運動の実施
自分がつらくない程度の運動は脊柱管狭窄症の症状緩和や予防に効果的があります。しかし、無理な運動や負荷のかかる運動は逆効果となる場合があるため、心配な場合は専門家の指示を仰ぎましょう。

③禁煙の意識
喫煙をされている方は注意が必要でしょう。タバコに含まれるニコチンが血管を収縮させるため、神経への血流が悪化して症状を悪化させることが考えられます。

④食事の意識
炭水化物や甘いもの、揚げ物などの高温調理が多い食事では糖尿病や高脂血症につながりやすく、これも血流を悪化させる要因となります。また、これらは体に炎症を起こしやすくなる要因でもあるため、痛みやしびれを生じやすくさせます。日々の食生活にも気を配れると良いでしょう。

まとめ

今回は脊柱管狭窄症の基礎知識や一般的な治療法などについて記事にしてきました。

まだまだお伝えしたいことは山ほどありますので今後も追々記事を書いていきますが、今回の内容は脊柱管狭窄症を改善する上での基礎知識にもなりますので、ぜひ覚えておいていただければ幸いです。

また、当院では脊柱管狭窄症をはじめ、腰痛や足のしびれなどにお悩みの方を多く施術させていただいております。当院のホームページは以下の画像をタップしますとご覧いただけます。

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