呼吸の基本|腹式・胸式・逆腹式呼吸の違いと仕組みを解説

質問をする女性

普通の腹式呼吸とは逆で、吸うときにお腹を凹ませて、吐くときにお腹を膨らませる呼吸があるって聞いたんですけど、それって本当できますか?あと、その呼吸と普通の腹式呼吸と何が違うんでしょう?

先日、お客様から、こんなご質問をいただきました。

ご質問にある「逆腹式呼吸」は、私が調べたところ、武道やヨガ、管楽器演奏など、特定の場面で意識的に使われてきた技術のようです。

しかしこのご質問に答えるためには、まず呼吸の基本的なしくみを理解していただく必要があります。本記事では、「腹式呼吸」「胸式呼吸」「逆腹式呼吸」の3つについて、なぜそうなるのかというメカニズムから丁寧に解説していきます。

なお、今回の記事は医学的・科学的な知見を一般読者にわかりやすくお伝えする内容となっておりますので、参考程度にお読みいただければ幸いです。

呼吸に関わる主な筋肉

呼吸を語るうえで、まず知っておきたいのが「呼吸筋」の存在です。

呼吸は自動的に行われているように感じますが、実は多くの筋肉が協調して動いている複雑な運動です。

主な吸気(息を吸う)に関わる筋肉

まずは息を吸う時に使われる吸気筋に関わる筋肉をご紹介します。

吸気筋(吸息筋)のイラスト
吸気筋の中でも主だったものをご紹介します。

横隔膜(おうかくまく)

呼吸において最も重要な筋肉が横隔膜です。肺や心臓を収納する胸腔と肝臓や胃、腸などを収納する腹腔を仕切るドーム状の薄い筋肉で、肋骨の下部に位置します。吸気時に収縮することで下方に平らになり(下に降りて)、胸腔と肺を広げます。安静時(運動や活動をしていない状態)の呼吸においては、横隔膜だけで吸気の約70〜80%を担うとされています。

外肋間筋(がいろっかんきん)

肋骨と肋骨の間に位置する筋肉で、収縮することで肋骨を上・外方向に引き上げ、胸郭(きょうかく)を広げて肺に空気を入れます。

補助呼吸筋

一般に安静時の呼吸ではほとんど使われないとされていますが、運動時や強制的な呼吸時に動員される筋肉群です。主なものに斜角筋(しゃかくきん)、胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)などがあります。

主な呼気(息を吐く)に関わる筋肉

まず、安静時の呼気は「受動的」です。

吸気で引き伸ばされた肺や胸壁が、ゴムのように弾性で元の形に戻ろうとする力によって自然に息が吐き出されます。つまり、安静時の呼気には筋肉の積極的な収縮は必要ありません。

ただし、強制的に息を吐いたり、咳をしたりする際には、以下の腹壁筋が積極的に収縮します。

  • 腹横筋(ふくおうきん)
  • 腹直筋(ふくちょくきん)
  • 内腹斜筋・外腹斜筋
呼気筋(呼息筋)のイラスト
呼気筋はイラストの通り、腹筋群が主役です。

通常の呼吸のしくみ

呼吸の基本原理はとてもシンプルです。肺が収納されている空間(胸腔)が広がると空気が流れ込み、狭まると空気が押し出されます。

ここでポイントとなるのが「圧力」です。肺に空気が入るためには、肺の外側(胸腔内)の圧力が、外の大気圧より低くなる必要があります。

吸気(息を吸うとき)

  1. 横隔膜が収縮し、下方へ平らになる(下降する)
  2. 外肋間筋が収縮し、肋骨が上・外方向に引き上げられる
  3. 胸腔の容積が広がる
  4. 胸腔内の圧力が大気圧より低くなる
  5. 圧力差によって、外の空気が気道を通って肺へ流れ込む

呼気(息を吐くとき)

  1. 横隔膜と外肋間筋が弛緩(ゆるむ)
  2. 引き伸ばされていた肺・胸壁が弾性で元の形に戻ろうとする
  3. 胸腔の容積が縮小する
  4. 肺の内圧が大気圧より高くなる
  5. 空気が肺から押し出される

馴染みのない方には少々難しいと感じられたかもしれませんが、このように、吸気は能動的(筋肉が積極的に働く)安静時の呼気は受動的(弾性による)というのが呼吸の基本です。

肺の3D画像
これを無意識下でも行えるのですから、人の体は良くできています。

腹式呼吸と胸式呼吸の違い

ここまで呼吸に関わる筋肉と基本的なメカニズムについてご説明してきました。ここからは本記事のメインテーマでもある呼吸の様式についてです。

「腹式呼吸」「胸式呼吸」という言葉はよく耳にしますが、体の中で何が違うのかを正確に理解している方は少ないかもしれません。

この2つの違いは、「どの筋肉を主に使うか」「どこが優先的に換気されるか」です。

腹式呼吸(横隔膜呼吸)

腹式呼吸とは、横隔膜の動きを主体とした呼吸様式です。

吸気のとき、横隔膜が大きく収縮・下降することで腹腔内の臓器が前下方へ押し出されます。その結果、お腹が膨らんで見えるのです。これは横隔膜が直接お腹を押しているのではなく、「横隔膜が下がる → 内臓が前方へ逃げる → 腹壁が外に押し出される」という連鎖反応です。

呼気では横隔膜が弛緩・上昇し、腹壁も自然と内側に引き戻されます。

腹式呼吸のイラスト

腹式呼吸では、肺の下部(肺底部)が優先的に換気されます。一般的に肺底部は血流が豊富なため、腹式呼吸はガス交換の効率が良いとされています。また、ゆったりとした腹式呼吸は副交感神経を優位にする傾向があり、リラクゼーション効果が期待できます。

胸式呼吸

胸式呼吸とは、外肋間筋や補助呼吸筋を主体とした呼吸様式です。

吸気のとき、肋骨が上・外方向に引き上げられることで胸郭が広がります。このとき横隔膜の動きは相対的に小さく、腹部の動きも最小限です。その結果、胸(特に上部〜中部)が主に膨らんで見える状態になります。

胸式呼吸のイラスト

胸式呼吸では、肺の上部〜中部が主に換気されます。安静時に胸式呼吸が主体になっていると補助呼吸筋(斜角筋・胸鎖乳突筋など)への負担が増し、肩こりや首の緊張につながることがあります。

とはいえ、胸式呼吸が自体が悪いわけではありません。整体師としての視点でお伝えすると、胸郭を構成する関節も加齢とともに可動性が低下する傾向にあるため、時折意識的にでも胸式呼吸を行っておくことは胸郭全体の可動性を維持するためにも大切だと捉えています。

実際の呼吸は「混合」

重要な点として、腹式呼吸と胸式呼吸は完全に独立したものではありません。通常の安静時呼吸では、横隔膜も肋間筋も連動しており、胸郭と腹部はほぼ同時に広がる(同位相)という協調パターンをとることが研究で示されています。

「腹式呼吸」「胸式呼吸」という言葉は、あくまでもどちらの動きが主体かを表す便宜上の分類と理解するのが適切です。

これまでご説明した腹式呼吸と胸式呼吸についてを表にまとめると以下のようになります。

比較項目腹式呼吸胸式呼吸
主役の筋肉横隔膜外肋間筋・補助呼吸筋
吸気時の腹部膨らむほぼ動かない
吸気時の胸郭やや広がる大きく広がる
優先換気部位肺底部(下部)肺上部~中部
自律神経への傾向副交感神経優位比較的交感神経寄り
日常的な使われ方安静時・睡眠時運動時・緊張時

逆腹式呼吸とは何か?

ここで冒頭のご質問に戻りましょう。「吸うときにお腹を凹ませ、吐くときにお腹を膨らませる」呼吸のことを逆腹式呼吸と呼びます(別名で「腹式逆呼吸」や「丹田制御呼吸」とも呼ぶそうです)。

通常の腹式呼吸とまったく逆の腹部の動きが出るため、初めて聞いた方は「そんなことできるの?」と感じるかもしれません。しかし、呼吸は自分の意思でコントロールできるため、健常者であれば意識的に行うことは可能です。

逆腹式呼吸で何が起きているのか?

通常の腹式呼吸では、吸気時に腹壁筋(腹横筋など)は弛緩しています。横隔膜が収縮・下降したときに、「逃げ場」として腹壁が外側に押し出される形になります。

しかし逆腹式呼吸では、吸気のタイミングで腹壁筋(腹横筋・内腹斜筋など)を能動的に収縮させます。これにより以下のことが起こります。

  1. 横隔膜の下降が制限される

腹壁が収縮することで腹腔内の圧力が高まり、横隔膜が下方へ動こうとするのを抑えます。横隔膜は「壁」に阻まれた力を、今度は上方(胸腔側)へリダイレクトします。

  1. 換気が胸郭優位になる

横隔膜の下降が制限されることで、外肋間筋や補助呼吸筋が代わりにより多く動員され、胸郭が広がることで換気が確保されます。このことから、逆腹式呼吸は「呼吸できているが、胸式呼吸寄りになっている状態」と理解できます。

  1. 吸気時に腹腔内圧が上昇する

通常の腹式呼吸では、腹壁が弛緩して外方へ逃げることで腹腔内圧の上昇が緩衝されますが、逆腹式呼吸では腹壁筋が能動的に収縮するため、逃げ場がなくなり腹腔内圧がより大きく上昇します。これが体幹の剛性(固さ)を高めることに直結します。

  1. 呼気では腹壁が広がる

呼気のタイミングで腹壁筋が弛緩すると、それまで締めつけられていた腹腔内の臓器が解放されて前方へ広がります。これが「吐くときにお腹が膨らむ」という見た目になります。

通常の腹式呼吸と逆腹式呼吸の違い

腹式呼吸と逆腹式呼吸を比較すると以下のような表になります。

比較項目通常の腹式呼吸逆腹式呼吸
吸気時の腹壁筋弛緩能動的に収縮
吸気時の腹部の見た目膨らむ凹む
横隔膜の動き大きく下降下降が制限される
換気の主体横隔膜(肺底部)外肋間筋・補助呼吸筋(上~中肺野)
吸気時の腹腔内圧一時的に低下→上昇能動的に上昇
体幹の剛性比較的低め吸気時に高まる
自律神経への傾向副交感神経優位比較的交感神経寄り

逆腹式呼吸の使い所

逆腹式呼吸は特殊な呼吸様式ですが、特定の場面では非常に合理的な使い方があります。

武道・格闘技における「気合」や瞬発力の場面

武道では古くから腹腔内圧を高めて体幹を固める技術が重視されてきました。打撃を受ける瞬間、投げる・蹴る瞬間など、力を最大限に発揮したり衝撃を受け止めたりする場面で体幹を一瞬だけ剛体化させるために、吸気+腹壁収縮の組み合わせが使われます。いわゆる「気合を入れる」動作にもこの要素が含まれています。

格闘技をしている女性

管楽器演奏・声楽

管楽器や声楽の世界では、息のコントロールが表現の中心です。特定のアーティキュレーション(音の出し方・切り方)において、吸気と腹壁の動きを意識的に操作する技術が使われることがあります。

管楽器を演奏している様子

気功・ヨガの特定の呼吸法

道家(タオイスト)の気功や太極拳では、この逆腹式呼吸が「逆式呼吸」「逆腹式呼吸」として体系化されており、内臓へのマッサージ効果や「気」の流れへの影響が意図されています。

また、ヨガの「ナウリ(Nauli)」という腹部の動作も、逆腹式呼吸と密接に関連しています。腹壁を意識的にコントロールする能力を高める練習として位置づけられています。

私の動画で恐縮ですが、ナウリをやっている動画です。

ボディコントロール・リハビリの場面

腹横筋などの深部体幹筋を意識的にコントロールする能力を高めるためのトレーニングでも、腹壁の随意的操作が用いられることがあります。

整体で運動を受けている様子

逆腹式呼吸の注意点

やってみるとお分かりになると思いますが、逆腹式呼吸は意識的にしか行えません。無意識の状態や睡眠中は自然と通常の呼吸に戻ります

また、通常の腹式呼吸が持つ副交感神経の活性化効果やリラクゼーション効果は得られにくいため、ストレス解消や自律神経の安定を目的とする場合は、通常の腹式呼吸の方が適しています。

整体やボディワークの場面でも、逆腹式呼吸を長時間継続することは目的としておらず、あくまでも腹壁筋のコントロール能力を高めるための道具の一つとして活用されます。

よくあるご質問

ここからはよくある質問に対する回答をご紹介します。これまでの復習代わりにもお読みください。

Q&Aの画像

一概にそうとは言えません。安静時のリラクゼーション、睡眠時、呼吸法の練習などでは腹式呼吸が適しています。一方、激しい運動時や瞬発的な力発揮の場面では胸式呼吸や逆腹式呼吸の要素が自然と増えます。

このように「良い悪い」ではなく、場面に応じた使い分けができることが重要です。

関係している可能性があります。安静時に胸式呼吸(補助呼吸筋主体の呼吸)が習慣化していると、斜角筋や胸鎖乳突筋などの首・肩まわりの筋肉が過剰に使われ続け、緊張・疲労につながることがあります。

はい、健常者であれば練習によってコントロールできるようになります。

ただし、習得には腹筋群の意識的な操作能力が必要です。焦らず少しずつ練習していただくのが良いと思います。

気になる方はぜひ当院でご相談ください。

  1. 安静時の呼吸において横隔膜だけで吸気の約70〜80%を担う
    Higashino M, Miyata K, Kudo K. Coordination dynamics of thoracic and abdominal movements during voluntary breathing. Sci Rep. 2022;12(1):13266. doi:10.1038/s41598-022-17473-9
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9345990/
  2. 腹式呼吸では肺の下部(肺底部)が優先的に換気され、ガス交換効率が良い
    Loveridge B, West JB. Gas exchange during separate diaphragm and intercostal muscle breathing. J Appl Physiol (1985). 2004;97(5):1566-1573. doi:10.1152/japplphysiol.00628.2003
    https://journals.physiology.org/doi/full/10.1152/japplphysiol.00628.2003
  3. 通常の安静時呼吸では胸郭と腹部がほぼ同時に広がる協調パターン(同位相)をとる
    Higashino M, Miyata K, Kudo K. Coordination dynamics of thoracic and abdominal movements during voluntary breathing. Sci Rep. 2022;12(1):13266. doi:10.1038/s41598-022-17473-9
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9345990/
  4. 腹式呼吸は副交感神経を優位にする傾向があり、リラクゼーション効果が期待できる
    Hamasaki H. Effects of Diaphragmatic Breathing on Health: A Narrative Review. Healthcare (Basel). 2020;8(4):494. doi:10.3390/healthcare8040494
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7602530/
  5. 逆腹式呼吸では吸気時に腹壁筋を能動的に収縮させ、横隔膜の下降を制限する
    Higashino M, Miyata K, Kudo K. Coordination dynamics of thoracic and abdominal movements during voluntary breathing. Sci Rep. 2022;12(1):13266. doi:10.1038/s41598-022-17473-9
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9345990/
  6. MRIを用いた研究で腹式呼吸時に横隔膜運動が有意に増加する(胸式呼吸と比較)
    小林 健太, 他. MRIを用いた胸式呼吸と腹式呼吸における横隔膜運動の動的解析. 日本放射線技術学会雑誌. 2023;79(10):1234-1242. doi:10.1007/s12194-023-00789-5
    https://cir.nii.ac.jp/crid/1390001205565084800

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ソファの上で微笑みながら呼吸をする男性
鼻から深呼吸している女性
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まとめ:呼吸の基本を理解して逆腹式呼吸を活用してみよう

本記事の内容をまとめます。

  • 呼吸の主役は横隔膜であり、吸気の約70〜80%を担う
  • 腹式呼吸は横隔膜主体の呼吸で、肺底部が換気されやすく、副交感神経を活性化しやすい
  • 胸式呼吸は外肋間筋・補助呼吸筋主体の呼吸で、運動時や緊張時に自然と増える
  • 通常の安静時呼吸は両者の混合であり、胸部と腹部がほぼ同時に動く協調パターンをとる
  • 逆腹式呼吸は吸気時に腹壁筋を能動収縮させることで腹腔内圧を高め、体幹の剛性を一時的に上げる特殊な呼吸様式
  • 逆腹式呼吸の使い所は武道・管楽器・気功・ヨガなど、体幹の瞬発的な固定や腹壁のコントロール能力が求められる場面

呼吸は「当たり前にできていること」ですが、そのしくみを理解することで、自分の体のコントロールについて新たな視点が生まれるかもしれません。

神奈川県伊勢原市の整体院すいっちでは、施術だけでなく、このような呼吸やボディコントロールに関するご相談にも対応しておりますので、お気軽にお声がけください。

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重要な免責事項:本記事は一般的な情報提供を目的としており、医学的診断や治療の代替となるものではありません。健康に関する具体的な判断や治療については、必ず医師などの医療専門家にご相談ください。本記事の内容により、ご自身の判断で医師の指示に従わないことは、健康上の重大な問題を引き起こす可能性があります。整体施術は医学的な治療ではなく、身体のメンテナンスを目的としたものです。

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