「私なんて体が硬いから肩こりも腰痛もあってガチガチ…体が柔らかいなんて羨ましい…」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、絶対とは言いませんが体が柔らかい人でも歳を重ねると「最近なんだか体の調子が悪い。関節が痛いし、すぐに疲れる…」そんなお悩みを抱えている方もいらっしゃいます。
実は「体が柔らかすぎる」ことは、多くの人が思っているほど良いことばかりではありません。むしろ、慢性的な痛みや疲労の原因になっている可能性があるのです。
「私の体の柔らかさって普通なの?」「なんで周りの人より疲れやすいんだろう?」そんな疑問を持ったことがある方へ、科学的根拠をもとに体の過度な柔軟性について詳しく解説します。
もくじ
“普通”の柔軟性かどうかを簡単セルフチェック
まず、あなたの柔軟性が本当に「普通」なのか、それとも「過度」なのかをチェックしてみましょう。柔軟性の医学的なスクリーニング検査(簡易的な検査)として使われているBeightonスコア(ベイトンスコア)という評価方法があります。これを使って、簡単に確認していきましょう。
Beightonスコアによるセルフチェック
以下の動作が痛みなくできるかどうかを確認してみてください。できる項目に1点ずつ加算します。なお、イメージしやすいようにNPO法人 過眠症サポートネットワーク様が作成されている画像も添付します。

手首・肘の柔軟性(上記画像の①②③):
- 小指を手の甲側に90度以上曲げられる(左右各1点)
- 親指を前腕に触れるまで曲げられる(左右各1点)
- 肘を10度以上反らせる(左右各1点)
膝・腰の柔軟性(上記画像の④⑤):
- 膝を10度以上後ろに反らせる(左右各1点)
- 立った状態で前屈し、手のひら全体を床につけられる(1点)
合計9点満点中の判定:
- 0-3点:正常範囲
- 4-5点:軽度の関節過可動性
- 6点以上:明らかな関節過可動性
研究によると、成人では4点以上、小児では6点以上が関節過可動性の基準とされています。このブログをお読みの方は成人の方が大半だと思われますので、もしあなたのベイトンスコアが4点以上であれば、「体が柔らかすぎる」可能性が高いです。
また、オーストラリアの研究によるベイトンスコアの解釈は下記の画像の通りです。人種による差もあると考えられますが、特にベイトンスコアが5点以上の場合は非常に珍しいレベルの柔軟性を持っていると捉えて良いでしょう。

日常生活での気づきポイント
Beightonスコアに加えて、以下のような経験があるかもチェックしてみてください。
- 子どもの頃から「体が柔らかい」と言われ続けている
- 関節がよく外れる、または外れそうになる
- ちょっとした動作で青あざができやすい
- 原因不明の関節痛が頻繁にある
- 疲れやすく、慢性的な倦怠感がある
これらの項目が多く当てはまる場合、単なる「柔軟性」を超えた状態である可能性があります。

体が柔らかすぎる3つのタイプ
体が過度に柔らかい状態には、その原因を大きく分けて3つのタイプがあります。
1. 後天的に獲得した健康的な柔軟性
ヨガやバレエ、体操などの練習により後天的に獲得した柔軟性です。この場合、筋力とのバランスが取れており、関節の安定性も保たれていることが多いです。以下のような特徴があります。
特徴:
- 意識的にコントロールできる
- 痛みや不調を伴わない
- 筋力も同時に発達している

2. 遺伝的な結合組織の特性による柔軟性
生まれつきの体質で、体を構成するコラーゲンなどの結合組織の特性により関節が柔らかい状態です。この場合、家族にも同様の特徴を持つ人がいることが多いです(家族も同様にBeightonスコアが高い傾向があるでしょう)。
特徴:
- 家族性(親や兄弟姉妹にも見られる)
- 子どもの頃から柔らかい
- 扁平足やヘルニアなどを併発することがある

3. トラウマ反応による柔軟性
幼少期の強いストレスやトラウマにより、神経系の反応として筋緊張が低下し、結果的に柔軟性が高くなった状態です。これはフリーズ現象とも言われ、「蛇に睨まれた蛙」のように緊急事態にも関わらず動けなくなった死んだふりのような状態です(これについては機会があればいずれ記事にします)。
特徴:
- 自分の体の感覚が鈍い
- 痛みを感じにくい
- 柔軟性のコントロールが困難

関節過可動性症候群とは:症状と特徴
関節過可動性症候群(Joint Hypermobility Syndrome:JHS)は、関節が正常範囲を超えて動きすぎる状態に、様々な症状が伴う疾患です。お伝えしてきたように生まれつきのものや、エーラス・ダンロス症候群(EDS)やマルファン症候群などの遺伝性疾患の一部として現れることがあります。なお、ヨガやピラティスのように後天的に柔軟性を獲得した方はこれらにJHSには含まれないようです。
主な症状
筋骨格系の症状:
- 慢性的な関節痛(特に膝、足首、肩)
- 筋肉痛と筋力低下
- 関節の不安定感
- 頻繁な捻挫や脱臼
- 慢性的な疲労感
神経系の症状:
- 位置感覚(固有受容感覚)の低下
- バランス能力の低下
- 集中力の低下
- 不安感やうつ症状
自律神経系の症状:
- 起立性低血圧
- 心拍数の変動
- 胃腸症状
- 温度調節の困難
研究では、関節過可動性症候群の患者の90%以上が女性で、若い年代に多く見られることが報告されています。また、神経発達の特性(自閉症、ADHD等)との関連も指摘されています(関節過可動性症候群の方全員に神経発達の特性があるということではありません)。
見落とされやすい理由
関節過可動性症候群が見落とされやすい理由として、以下が挙げられます:
- 医療従事者の認知度が低い:専門的な訓練を受けた医療者が少ない
- 症状が多様で非特異的:他の疾患と似た症状が多い
- 患者自身の認識不足:「体が柔らかいのは良いこと」という思い込みや、「体が柔らかい」という自覚の欠如
なぜ体が柔らかいと疲れやすいのか

体が柔らかいと、なぜ疲れるの?
この疑問には、科学的な説明があります。
関節安定性の低下
関節に過可動性がある人では、関節を支えている靭帯や関節包が通常より伸びやすく、関節の安定性が低下しています。そのため、筋肉が常に関節を支えようと働き続け、慢性的な筋疲労を引き起こします。
固有受容感覚の低下
関節に過可動性がある方は固有受容感覚(体の位置や動きを感じ取る感覚)が低下していることが多く、これにより:
- 正確な動作に余計なエネルギーが必要
- バランスを保つために筋肉が過剰に働く
- 疲労回復が遅れる
逆にヨガやピラティスなどで固有受容感覚を鍛えながら柔軟性を獲得した方はこれに当てはまりにくいことも言えるでしょう。
エネルギー効率の低下
関節が不安定な状態では、同じ動作でも正常な人より多くのエネルギーを消費します。これが慢性的な疲労感の大きな原因となっています。
研究によると、関節過可動性症候群の患者では、健常者と比較して疲労スコアが有意に高く、特に小児では疲労が痛みや機能障害の重要な予測因子となることが示されています。
日常生活で気をつけるべき5つのポイント
関節過可動性がある方が日常生活で注意すべきポイントをご紹介します。
1. 関節の過度な伸展を避ける
関節を「最大まで」動かすことは避け、可動域の80%程度に留めるようにしましょう。特に以下の動作に注意:
- 膝を完全に伸ばし切らない
- 肘を反らせすぎない
- 首を極端に曲げない

2. 筋力強化を優先する
柔軟性向上よりも、関節周囲の筋力強化を優先します。特に重要なのは:
- 体幹筋:腹筋、背筋の安定性向上
- 大腿四頭筋:膝関節の安定化
- 肩甲骨周囲筋:肩関節の安定化
3. 運動前のウォーミングアップを十分に
関節過可動性がある人は、ウォーミングアップを通常より長めに行うことが重要です。10-15分程度の軽い有酸素運動から始めましょう。
4. 痛みのサインを見逃さない
「痛くても我慢できる」「痛みに慣れている」という状態は危険です。痛みは体からの重要なサインなので、無理をせず休息を取りましょう。
5. 適切なサポート用具の使用
必要に応じて以下のサポート用具を活用しましょう:
- 膝や足首のサポーター
- インソール(扁平足がある場合)
- 腰部ベルト(重いものを持つとき)
栄養面からのサポート方法
関節過可動性がある方にとって、適切な栄養摂取は症状管理の重要な要素です。
コラーゲン合成をサポートする栄養素
結合組織の健康維持には、コラーゲン合成に関わる栄養素が重要です:

ビタミンC:
- 1日100-200mg程度
- 柑橘類、ブロッコリー、パプリカなど
- コラーゲン合成の必須補酵素
グリシンとプロリン:
- コラーゲンの主要構成アミノ酸
- 鶏皮、豚足、ゼラチンなどに豊富
銅と鉄:
- コラーゲンの架橋形成に必要
- レバー、ナッツ類、緑黄色野菜
炎症を抑制する栄養素
慢性的な関節痛や疲労の軽減には、抗炎症作用のある栄養素が有効です:
オメガ3脂肪酸:
- EPA・DHA合計で1日1-2g
- 青魚、亜麻仁油、くるみなど
- 炎症性サイトカインの抑制
抗酸化ビタミン:
- ビタミンE:ナッツ類、植物油
- βカロテン:緑黄色野菜
- 酸化ストレスから組織を保護
避けるべき栄養素
以下の栄養素は関節過可動性の症状を悪化させる可能性があります:
- 過度な糖質:炎症反応を促進
- トランス脂肪酸:炎症性物質の産生増加
- 過剰なカフェイン:自律神経系への影響

筋力強化と安定性向上の具体的方法
関節過可動性がある方にとって、適切な筋力強化は症状改善の鍵となります。
体幹安定化エクササイズ
膝つきプランク:
- 膝をついた状態でプランクの姿勢
- 10-20秒キープから始める
- 徐々に時間を延ばす

デッドバグ:
- 仰向けで膝を90度に曲げる
- 対角線の手足をゆっくり伸ばす
- 体幹を安定させながら10回×3セット
固有受容感覚トレーニング
バランスボード:
- 不安定な台の上でバランスを取る
- 1日5-10分程度
- 転倒に注意し、必要に応じて支持物を用意

片足立ち(基本は目を開けてやると良いと思います):
- 目を閉じて30秒間片足立ち
- できない場合は目を開けたまま実施
- 左右交互に行う
筋力強化の注意点
負荷の調整:
- 軽い負荷から始める
- 痛みが出た場合は即座に中止
- 週3-4回の頻度で継続
関節の位置:
- 関節を過度に伸展させない
- 中間位での筋力強化を重視
- 正しいフォームを最優先

Q&A:よくある質問と回答
体の柔軟性について、よくいただく質問にお答えします。

- Tinkle BT, et al. The lack of clinical distinction between the hypermobility type of Ehlers-Danlos syndrome and the joint hypermobility syndrome. Am J Med Genet A. 2009;149A(11):2368-2370. doi:10.1002/ajmg.a.33070
- Joint hypermobility syndrome: 2 cases… Adv Anat Biol. 2021. PDF
- Abdelazeem A, et al. Joint hypermobility syndrome: a narrative review. Am J Intern Med. 2023;11(3):58-68. doi:10.11648/j.ajim.20231103.12
- Orscience. New therapeutic opportunities in management of patients with joint hypermobility syndrome and synovitis. Consilium Medicum. 2023;25(7):463-468. doi:10.26442/20751753.2023.7.202268
- Terry RH, et al. Living with joint hypermobility syndrome: patient experiences. Fam Pract. 2015;32(3):354-358. doi:10.1093/fampra/cmv026
- Lyell V, et al. Diagnosis, management and assessment of adults with joint hypermobility syndrome: a UK-wide survey. Musculoskelet Care. 2016;14(4):233-240. doi:10.1002/msc.1091
- Pacey V, et al. Ability of the Bristol Impact of Hypermobility questionnaire to discriminate… Musculoskelet Care. 2020;18(4):467-475. doi:10.1002/msc.1436
- Paxton DM, et al. Group physiotherapy interventions for hEDS and HSD: a service evaluation. Rheumatology. 2020;59(Suppl 2):keaa111.083. doi:10.1093/rheumatology/keaa111.083
- O’Connor M, et al. Psychological interventions in HSD and EDS: a systematic review. Rheumatol Int. 2024;44(2):247-260. doi:10.1007/s00296-023-05503-2
- Singh H, et al. Beighton score vs other tools for GJH assessment. medRxiv. 2022. doi:10.1101/2022.04.25.22274226
- Malik H, et al. Frequency of joint hypermobility using Beighton’s score in fibromyalgia. Pak J Med Health Sci. 2022;16(8):330-332.
- Remvig L, et al. Self-reported line drawings of the modified Beighton score. BMC Med Res Methodol. 2018;18:17. doi:10.1186/s12874-017-0464-8
- Setiawan AF, et al. Relationship between Beighton score and walking age in children. Maj Kedokt Indones. 2021;71(4):124-128. doi:10.32598/mki.71.4.355
- Scheper MC, et al. Pediatric joint hypermobility: a diagnostic framework. Orphanet J Rare Dis. 2023;18:104. doi:10.1186/s13023-023-02717-2
- Quatman-Yates CC, et al. Hypermobility score and injury rate in gymnastics. Minerva Ortop Traumatol. 2019;70(2):67-72. doi:10.23736/S0394-3410.19.04186-5
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- Eccles JA, et al. The challenges of chronic pain and fatigue. Clin Med (Lond). 2021;21(1):19-27. doi:10.7861/clinmed.2020-0947
- Russek LN, et al. EDS/HSD vs other chronic pain diagnoses—Swedish registry study. J Clin Med. 2020;9(7):2143. doi:10.3390/jcm9072143
- Csecs J, et al. Joint hypermobility links neurodivergence to dysautonomia and pain. Front Psychiatry. 2022;12:786916. doi:10.3389/fpsyt.2021.786916
- Verkuijl SJ, et al. Fatigue, pain interference, distress in pediatric hEDS. Children. 2025;12(2):170. doi:10.3390/children12020170
- Hughes AM, et al. Autistic traits correlate with chronic musculoskeletal pain. OBM Neurobiol. 2023;7(1):155. doi:10.21926/obm.neurobiol.2301155
まとめ:柔軟性は「適度」が一番
体の柔軟性は、多すぎても少なすぎても問題となります。特に関節過可動性がある方は、以下のポイントを意識することが重要です:
認識の転換:
- 「体が柔らかい=良いこと」という思い込みを見直す
- 慢性的な症状の原因が柔軟性過多にある可能性を考慮する
日常生活の工夫:
- 関節の過度な伸展を避ける
- 筋力強化を継続的に行う
- 適切な栄養摂取を心がける
専門的サポート:
- 必要に応じて医療機関を受診
- 理学療法士による適切な運動指導を受ける
長期的視点:
- 症状は適切な管理により改善可能
- 継続的なセルフケアが最も重要
研究によると、適切な多職種連携による包括的管理により、関節過可動性症候群の患者の生活の質は大幅に改善することが示されています。「体が柔らかすぎる」ことで悩んでいる方は、一人で抱え込まずに適切な専門家のサポートを求めることをお勧めします。
なお、今回とは逆に可動域が狭い=体の硬い方向けの記事も書いておりますので、ご興味があればそちらもご覧ください。
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私って子どもの頃から体が柔らかくて…開脚してもベターって前屈できちゃうんです。