眠れないほどの腰痛に潜む命の危機 〜Red Flag Sign〜

腰痛男さん

いてて…。腰が痛くて寝返りもつらい…何よりも寝ていられないくらい痛いぞ。これって湿布でも貼っておけば良くなるのかなぁ…。

宮森

ちょっとお待ちください!腰痛が楽になる姿勢はありますか?楽になる姿勢がないなら今すぐ病院に行きましょう!

腰痛男さん

え?!今すぐ病院に行かなきゃいけない腰痛があるんですか?ちょっと怖いんですが…詳しく教えてください!

宮森

腰痛には命に関わる病気が潜んでいる可能性があるんです!今回のブログ記事を読んで危険信号(Red Flag Sign)を知ってください!そして当てはまるようならば今すぐ病院に行きましょう!

命に関わる腰痛がある

腰痛とは読んで字のごとく腰に痛みや張り、しびれ、違和感などを感じる状態を言います。「腰が痛い」という状態を表す言葉であり、医学的な診断名ではありません。

一説には50〜80%以上の人が生涯で腰痛を経験すると言われており、とても身近な症状であると言えます。

腰痛の原因はさまざまであり、腰の筋肉の緊張や関節のズレが原因で起きることもありますし、骨の変形などが原因で起きることもあります。これらに加えて骨折、感染症、内臓の病気、がんなど、時には命に関わるような病気が原因で腰痛を引き起こすこともあります。

今回のブログ記事は命に関わりかねない危険な腰痛の知識を整理し、その危険性を正しく理解し、早期に病院を受診していただくなど、適切な対応の目安を知っていただくことを目的に書かせていただきました。また、腰痛に伴って起きる他の症状などにも注意が向けられるような内容にもなっております。ぜひ最後までお読みになってください。

手前味噌ですが動画でもお伝えしておりますので、動画でご覧になりたい方は以下の動画をご視聴ください。

今回のブログ記事と取り上げ方が違う部分もありますが、参考になれば幸いです。

腰痛の危険信号(Red Flag Sign)とFACET

腰痛に裏に潜む命に関りかねない病気を見逃さないように、危険信号(Red Flag Sign)というものが定められています。

この危険信号の定義は国によってさまざまですが、日本では日本整形外科学会と日本腰痛学会が監修した「腰痛診療ガイドライン2019」に次のように定められています。

専門用語も多く、馴染みのない言葉もあるかもしれませんが定義づけられているものなのでそのまま記載します。専門的用語は読み飛ばしていただいても構いません。後ほど分かりやすいものをピックアップして解説していきます。

腰痛の危険信号 Red Flag Sign(腰痛診療ガイドライン2019より)

  • 発症年齢が<20歳未満、 または>55歳
  • 時間や活動性に関係のない腰痛
  • 胸部痛
  • 癌、 ステロイド治療、 HIV感染の既往
  • 栄養不良
  • 体重減少
  • 広範囲に及ぶ神経症状
  • 構築性脊柱変形
  • 発熱

*発症年齢<20歳では脊椎奇形、 >55歳では悪性腫瘍、椎体骨折、 大動脈解離などが危惧されます。

そしてこのような腰痛の危険信号(Red Flag Sign)に当てはまった場合、以下のような病気が疑われることがあります(絶対当てはまるということではありません)。

危ない腰痛「FACET」

FACETとはFracture(骨折)、Aorta(大動脈疾患)、Compression(脊髄圧迫症候群)、Epidural abscess(膿瘍・感染)、Tumor(腫瘍)の頭文字を取ったものです。

FACETの例を以下に挙げていきますが専門用語が多めのため、ご興味のある方のみご覧ください。

  • Fractureの例|脊椎圧迫骨折

高齢者に多い背骨の骨折(脊椎圧迫骨折)は急性腰痛の原因として最も多く、寝たきりの原因になったり、その後の身体機能低下や予後にも影響を及ぼす骨折として重要視されています。

脊椎圧迫骨折は骨粗鬆症との関わりが深いとされ、骨粗鬆症性の方は尻もちをついた時や重い物を持った時など、弱い外力が加わっただけでも骨折してしまうことがあります。

  • Aortaの例|大動脈解離・大動脈瘤破裂

大動脈解離は大動脈の血管壁が裂け、その亀裂に血液が入りこむことで大動脈から分岐した動脈の枝の血流が途絶えて、脳梗塞、心筋梗塞、消化管虚血がおこり危険な状態となります。

この初期症状として突然の腰痛や背部痛、胸痛が現れます。治療法は手術が選択され、大動脈解離の原因となった血管の亀裂を取り除くか、閉鎖する手術法があります。

大動脈瘤の多くは破裂しない限り無症状でが、大動脈瘤が大きくなると腹痛、腰痛、背部痛が現れます。

痛みが出るほどに大きくなった時点で破裂の危険性が高まっており、破裂すると死亡率が80~90%にも及ぶ非常に怖い疾患です。

破裂する危険性がある場合には動脈瘤を人工血管にて置き換える手術がおこなわれます。

  • Tumor,Compressionの例|脊椎腫瘍・脊髄腫瘍

脊椎腫瘍は原発性脊椎腫瘍と転移性脊椎腫瘍の2つに大別されます。

患者数が多いのは転移性脊椎腫瘍の方で、癌が血液やリンパによって背骨に運ばれて転移した腫瘍のことを言います。肺がん、乳がん、前立腺がん、消火器の癌、甲状腺がん、腎臓がんからの転移が多くみられます。

癌細胞が背骨へ転移して増殖して骨を破壊すると激しい腰痛が現れます。また、破壊されて弱くなった背骨が負荷に耐えられなくなると骨折を生じます。

さらに骨折の骨片や膨らんだ腫瘍によって脊髄が圧迫されると神経症状(麻痺)が生じ、治療法は癌そのものに対する化学療法やホルモン療法が選択されます。

脊髄腫瘍は脊髄内や神経を保護する膜やその他の軟部組織、背骨などに発生した腫瘍によって脊髄や神経が圧迫される病気の総称です。

激しい腰痛に加えて、しびれ、感覚障害、筋力低下などが生じ、治療法は腫瘍を取り除く手術がおこなわれます。

  • Epidural abscessの例|化膿性脊椎炎・脊椎カリエス

化膿性脊椎炎も脊椎カリエスも感染した細菌が血流によって脊椎に運ばれることで化膿する疾患です。それぞれ原因菌が異なり、黄色ブドウ球菌が原因の場合は化膿性脊椎炎、結核菌が原因の場合は脊椎カリエス(結核性脊椎炎)と呼ばれます。

これらは40~50代に多いとされており、さらに糖尿病、悪性腫瘍、肝機能障害、透析患者など、いわゆる免疫力が低下している人に起こりやすい病気とされています。どちらも背中を叩くと痛みが増す叩打痛があることも特徴です。

化膿性脊椎炎は、急性の場合には激しい腰痛や背部痛に加え、高熱がみられます。慢性の場合には痛みは比較的軽症とされています。

また、背骨がつぶれたり、脊髄の周囲に膿がたまったりするることで神経が圧迫されて麻痺などの神経症状が起こる可能性があります。

脊椎カリエスは微熱、食欲不振、倦怠感などの症状がみられます。化膿性脊椎炎に比べると腰の痛みは少なく、ゆっくりと進行するとされています。

さて、長々と書いてきた腰痛の危険信号(Red Flag Sign)やFACETは医師向けのものですので自分で判断することができないものも含まれています。

今回は腰痛の危険信号(Red Flag Sign)の中から、医学的な知識がなくても自分で注意を払えるものを3つピックアップしてお伝えします。

自分で感じ取れる3つの危険信号(Red Flag Sign)

腰痛が生じた場合、危険信号(Red Flag Sign)の中から以下の3つについて観察してみましょう。当てはまったら場合はすぐに病院への受診をおすすめいたします。

時間や活動性に関係のない腰痛

まずはこれを最初の目安にすることをおすすめします。

「時間に関係のない」とは、腰痛がずっと続き、痛みが軽くなる時間がない状態です。

「活動性に関係のない」とは、どの方向を向いて(あお向け、うつ伏せ、横向きなど)寝ていても、座った状態でも、立っていても、動いていても、どんな姿勢でいても腰痛がある状態です。

激しい痛みを伴う腰痛と言えばぎっくり腰がありますが、ぎっくり腰でも動かないでいたり、姿勢を変えることで痛みが軽減されることがあります。

しかし、これまでに挙げてきた危険信号(Red Flag Sign)やFACETに当てはまるような骨折や内臓の病気が原因で腰痛が起きている場合は時間が経過したり姿勢を変えたりしても痛みが変わらない、もしくはどんどんひどくなることがあります。

安静にしていても痛い、時間経過とともに痛みが増すようであれば迷わず、すぐに病院に行くようにしてください。

広範囲に及ぶ神経症状

神経症状とは、神経が何らかの影響で傷ついて出る症状を言います。

腰痛に関連した神経症状は、主に腰から足にかけてのしびれや感覚のマヒ、筋力低下(足の動かしづらさ)のほか、膀胱直腸障害(尿や便のコントロールができなくなった状態失禁・便秘のどちらもがあり得る)などが生じることがあります。

この中でも膀胱直腸障害は注意が必要です。膀胱直腸障害の原因もさまざまですが、腰痛を伴う場合はすぐに手術が必要になることがあります。

腰痛にしびれなどの神経症状が伴っている場合も迷わず病院に行くようにしてください。

発熱

発熱は一般にかぜなどの感染症が原因で起きます。

感染症とひと言で言ってもさまざまあり、病原体が腰の骨や筋肉、内臓に入り込んでしまう感染症もあります。腰痛に関連する感染症で言えば、FACETの項目で挙げた化膿性脊椎炎や脊椎カリエスが例として挙げられます。

著しい発熱は腰だけでなく全身が痛くなることもありますが、それでも発熱に加えて激しい腰痛がある場合もすぐに病院を受診するようにしてください。

今回の参考文献

大鳥精司(2021).内科医が知っておくべき整形外科疾患(腰痛), 日本内科学会雑誌 110 (12), 2515-2523, 2021-12-10.

本日のまとめ

今回は腰痛という多くの人が経験する症状にも、時には命に関わる病気が潜んでいることがあることを危険信号(Red Flag Sign)を例にお伝えしてきました。

特に今回ピックアップしてお伝えした「時間や活動性に関係のない腰痛」「広範囲に及ぶ神経症状神経症状を伴う」「発熱」という3点は腰痛に限らず他の部位の症状においても重要な目安になりますので、この機会にぜひ覚えてください。

私は個人で整体院を営んでおりますがこれまでに腰痛にお悩みでこられたお客様の中には危険信号(Red Flag Sign)に当てはまり、すぐに病院を受診するようにおすすめした方がいらっしゃいました。

その中の数人からは後日ご連絡をいただた時に「実は骨折でした」「内臓の病気が見つかった」ということがありました。見過ごして施術していたと考えるとゾッとするくらいの一大事になっていた病気もありました。

普段生活をしていると体のことや病気のことについて学ぶ機会は少ないかと思いますが、知識は命を助け、健康の維持や増進にも役立てることができます。

伊勢原市の整体院すいっちではお客様に施術だけでなく、健康に関する知識などを知っていただくために定期的に発信しています。ぜひ、以下の画像をタップして当院のホームページもご覧になってみてください。