健康のためにウォーキングを頑張っている中高年の方は多いと思いますが、「脚をどれだけ動かすか」「歩幅をどれだけ広げるか」ばかりに意識が向いていて、腕や体幹の使い方まで気にしている方は少ないのではないでしょうか。
前回の記事(歩行は”全身のポンプ運動”かも?|腕振り・体幹の使い方と循環を考える)では、腕振りや体幹のねじれが歩行の安定性や血流の巡りに関わっている可能性についてお伝えしました。
今回はその内容を踏まえて、中高年の方のウォーキングでよく見かける「もったいない歩き方」のパターンと、その見直しポイントを整理していきます。
なお本記事は、現時点で確認できる知見をもとにした一般的な情報提供であり、特定の症状の診断や治療を目的としたものではありません。痛みや不安のある方は、医療機関や専門家にご相談ください。
よく見かける3つの歩き方パターン
あくまで私の普段の観察に基づくものですが、ウォーキングをされている中高年の方を見ていると、いくつか共通した傾向があるように感じます。

パターン1:体幹を固めて、ストライドだけ大きくしようとする
「歩幅を広く、大股で歩こう」と意識するとき、体幹を固定したまま脚だけを大きく振り出しているケースをよく見かけます。
体幹がねじれずに固定された状態では、脚の動きによって生じる回転の力を、腕振りや体幹のねじれで打ち消すことができません。その結果、下半身や腰まわりの筋肉だけで姿勢を保とうとする負担が増えやすくなることが考えられます。

頑張って歩いているのに、なんか腰や股関節が疲れるんだよなぁ…
と感じる場合、この体幹を固める使い方が関係している可能性があります。
パターン2:肘だけ曲げて、肩や胸がほとんど動いていない
「腕を大きく振る」と意識するあまり、肘を曲げて前後に動かすことだけに集中し、肩甲骨や胸郭がほとんど動いていないケースをよく見かけます。
肘の曲げ伸ばしは、実は歩く速さがそれほど速くない場合には、それだけで大きな効果を生むわけではありません。腕振りが本来意味を持つのは、肩甲骨や胸郭を含めた上半身全体が連動して動くことによって、体幹のねじれが引き出される点にあります。
肘を曲げて動かしても、肩甲骨や胸郭の連動が起きなければ、腕振りの本来の役割は十分に発揮されにくいと考えられます。
パターン3:「姿勢を正そう」として、からだの揺れが消えている
「背筋を伸ばして、まっすぐ歩きましょう」というアドバイスは一般的ですが、これを意識しすぎるあまり、歩行中に本来自然に起きるはずの体幹のねじれや上下動まで抑え込んでしまうケースもよく見かけます。
歩行はもともと、骨盤や胸郭がわずかにねじれながら進む動きです。
この自然な動きを「姿勢が崩れている」と捉えて無理に抑え込むと、筋肉を伸び縮みさせる機会が減り、かえって体を固めた状態が続きやすくなります。
なぜこれらのパターンが「もったいない」のか
私がよく見かけ、「もったいない」と感じる歩き方3パターンをお伝えしてきました。では、なぜ「もったいない」のかの理由をそれぞれ挙げていきます。
理由1:体幹を固めることの短期的なメリットと長期的な負担
体幹を固めて歩くことは、一時的には「安定して楽」に感じられることがあります。これは、筋肉を一定の強さで収縮させたまま保持する、いわゆる等尺性収縮に近い使い方です。
しかし、筋肉は収縮と弛緩を繰り返すことで、血液やリンパ液の巡りを助ける「筋ポンプ作用」を発揮しやすくなると考えられています。

つまり、体幹を固めたままの時間が長くなると、この収縮と弛緩の切り替えが減り、巡りの面では不利になる可能性があります。デスクワークで肩や腰が張ってくる感覚に近いものが、歩行中にも起きているのかもしれません。

理由2:肘角度そのものよりも、連動しているかどうかが重要
前回の記事でお伝えしたとおり、腕振りには脚の動きによる回転を打ち消し、体幹を安定させる役割があると考えられています。この役割を十分に発揮するためには、肘の曲げ伸ばしだけでなく、肩甲骨が肋骨の上を滑るように動き、胸郭がわずかに回旋することが重要です。
つまり、「肘を90度に曲げる」という指導そのものよりも、「肩甲帯と胸郭が自然に動いているかどうか」を見た方が、実際の効果に近づきやすいと考えられます。
理由3:「自然な揺れ」を消してしまうことのデメリット
歩行中の体幹のねじれは、筋肉や腱を効率よく使うストレッチ・ショートニング・サイクル(SSC)という仕組みを引き出すきっかけになっていると考えられています。
姿勢を意識しすぎてこの自然な揺れを抑え込んでしまうと、SSCの働きを十分に活かせず、歩行の効率や筋肉・関節周囲の巡りの両面で、機会を逃してしまう可能性があります。
修正の方向性
ここからは、それぞれのパターンに対する見直しの考え方をご紹介します。ご自身の歩き方と照らし合わせながら読んでみてください。
修正1:骨盤と胸郭の「軽いねじれ」を許容する
「大きく歩こう」「歩幅を大きくしよう」とする前に、まずは骨盤と胸郭がわずかに逆方向にねじれる感覚を掴むことをおすすめします。
その場で足踏みをしながら、腕を軽く前後に伸ばすように振ってみると、骨盤と胸郭が自然にねじれる感覚を体感しやすくなります。
歩幅を無理に大きくしようとするよりも、このねじれを許容した上で、結果的に歩幅が自然に伸びるという順番で捉える方が、体への負担は少なくなりやすいと考えられます。
修正2:肘角度ではなく「肩甲骨の滑り」を意識する
腕を振るときは、肘の角度を固定的に意識するよりも、「肩甲骨が肋骨の上を軽く前後にスライドする感覚」を意識してみてください。歩きながら、肩の後ろが軽く動いている感覚があれば、腕振りが上半身全体に伝わっているサインと言えます。
自宅でできる簡単な確認方法として、その場で肩をすくめたり回したりして、肩甲骨が自由に動く感覚を先に掴んでおくと、歩行中の動きにもつながりやすくなります。
修正3:「まっすぐ」よりも「よく動く」を優先する
姿勢を意識する際は、「まっすぐ立つこと」よりも、「歩いているときにからだが自然に揺れているかどうか」を基準にしてみてください。
歩行中の軽い揺れやねじれは、崩れた姿勢ではなく、筋肉や関節を適切に使うための自然な動きの一部です。
しかし、不安な揺れ方(左右に大きくふらつく、片側に傾き続けるなど)がある場合は自己判断せず、専門家に相談することをおすすめします。
修正4:荷物の持ち方も見直してみる
前回の記事でも触れましたが、両手に荷物を持つと腕振りが出にくくなります。
リュックサックなどを活用して両手を空けられる場面では、積極的に取り入れてみてください。
片手にしか荷物を持てない場合は、時々持つ手を変えることで、左右の偏りが続くことを避けやすくなります。
修正5:うまく感覚がつかめない場合はノルディックウォーキングも選択肢に
前回の記事でご紹介したノルディックウォーキングは、ポールを使うことで腕振りと体幹のねじれが自然に連動しやすくなるという特徴があります。感覚がうまくつかめない方には、体感するための一つの手段として検討する価値があります。

ただし、通常のウォーキングよりも心拍数や呼吸の負荷が上がりやすいという報告もあるため、心臓や肺に負担がかかりやすい方、バランスに不安のある方は、始める前に医師や専門家に相談されることをおすすめします。
ここまでお読みいただく中で

私は上手に歩けてるのかな?

個別に相談できる場があると助かるんだけど…
と感じている方も多いと思います。
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よくあるご質問
ここからはよくある質問に対する回答をご紹介します。これまでの復習代わりにもお読みください。

- 腕振りは体幹回旋を抑え、歩行を安定させる
Bruijn SM, Meijer OG, Beek PJ, van Dieën JH. Effects of gait pattern and arm swing on intergirdle coordination. Hum Mov Sci. 2012;31(3):660-671.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22071228/ - 荷物を持つと体幹(骨盤)の回旋が減り、歩幅の作られ方が変わる
Kinoshita H. How do load carriage and walking speed influence trunk coordination and stride parameters? [著者名要確認]. J Biomech. 2003.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12485642/ - ストレッチ・ショートニング・サイクル(SSC)は筋・腱の力発揮効率を高める
Seiberl W, et al. Editorial: The Stretch-Shortening Cycle of Active Muscle and Muscle-Tendon Complex: What, Why and How It Increases Muscle Performance? Front Physiol. 2021;12:693141.
https://www.frontiersin.org/journals/physiology/articles/10.3389/fphys.2021.693141/full - 歩幅の異常(過度な短縮・過度な広げ方)は高齢者の転倒・機能低下と関連する
Alfonso-Rosa RM, et al. Stride Length Predicts Adverse Clinical Events in Older Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Clin Med. 2021;10(12):2670.
https://www.mdpi.com/2077-0383/10/12/2670 - 高齢者は加齢に伴い、歩幅の作り方・歩隔・歩行速度を代償的に変化させる
The effect of aging on gait parameters in able-bodied older subjects: a literature review. Aging Clin Exp Res. 2016.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26210370/
関連記事
本記事では中高年ウォーキングのよくある間違いと修正についてまとめてきました。
前回の記事のほか、歩行についての記事もぜひ参考にしてみてください。
- 関連記事:歩行は”全身のポンプ運動”かも?|腕振り・体幹の使い方と循環を考える
- 関連記事:ヒト本来の歩き方はあるのか?狩猟採集民の研究から自然な歩行・走行を考える
- 関連記事:機能的に最適な姿勢と歩行とは?|エネルギー最小化原理と個人差の視点から
まとめ:フォームを「正す」より、自然な動きを取り戻す
中高年ウォーキングでよく見かける歩き方の傾向を振り返ってみましょう。
「正しいフォーム」を型として覚えるよりも、もともとからだが持っている自然な動きを、意識しすぎずに引き出すことが、中高年ウォーキングを見直す上で大切な視点だと考えています。
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重要な免責事項:本記事は一般的な情報提供を目的としており、医学的診断や治療の代替となるものではありません。健康に関する具体的な判断や治療については、必ず医師などの医療専門家にご相談ください。本記事の内容により、ご自身の判断で医師の指示に従わないことは、健康上の重大な問題を引き起こす可能性があります。整体施術は医学的な治療ではなく、身体のメンテナンスを目的としたものです。



















ウォーキングをするときは歩幅を広げて、大股で歩いてます!