
お腹が空いて仕方なくて…たくさん食べても太れないんです…。
「いくら食べても太らない(太れない)」 おそらく多くの方にとって羨ましくも思える“痩せの大食い”体質ですが、当人たちにとっては悩みのタネであることもあるようです。

実はこの現象、単なる「体質」ではなく、遺伝子・代謝・消化器の特殊なメカニズムが複合的に作用した結果と言われています。そして、それなりのリスクを伴っていることもまた科学的な事実です。今回は、食べても太らない体の秘密を、解剖学・生理学・栄養学の観点から分かりやすく解説します。
ちなみに今回の記事のテーマとは真逆で、私のように「食べた分だけ太る」という方や、ダイエット経験をして「食べていないのに太る」という方は前回の記事をぜひお読みください。
もくじ
遺伝子に刻まれた「脂肪が燃えやすい体質」
大食いタレントさんのように一度、もしくは一日の間に信じられ異様な量の食事をし、尚且つ太らない方は遺伝的に「脂肪が燃えやすい体質」である可能性があります。遺伝的なものなので変えようがない部分でもありますが「こんなこともあるのか」と思われると思います。
褐色脂肪組織の活性化


通常、成人では少量しか存在しない褐色脂肪細胞(Brown fat cell)が、痩せの大食い体質の方では活発に働いているとされています。褐色脂肪細胞は、脂肪を燃焼して熱を産生し、体温を維持する役割を果たす「サーモジェニック効果」を持っており、1日あたり最大500kcalを消費するとされています。
ちなみに500kcalと言えば、鶏むね肉の照り焼き (150g): 約200kcal、玄米ご飯 (100g): 約140kcal、サラダ (野菜300g): 約100kcal、 味噌汁 (100ml): 約50kcalくらい。つまり、成人の一食分くらい(やや少なめ)の食事量でもあります。
BRS-3遺伝子の役割
2003年に発見されたBRS-3遺伝子は、エネルギー消費を調節する「代謝スイッチ」として機能します。あくまで動物実験ではありますが、この遺伝子変異を持つ個体が30%多くエネルギーを消費することが確認されています。痩せの大食いの体質の方は、この遺伝子変異を持っており、エネルギー消費量が多い可能性があります。
消化器系の特殊な構造
痩せの大食い体質の方はそもそも食べ物を消化・吸収する消化器の構造が特殊であることもあるようです。


胃の驚異的な拡張能力
MRI検査によると、大食い体質の方の胃は通常の3倍以上拡張可能な方もいらっしゃるのだそうです。


さらに、蠕動運動(消化管の運動)が活発で、食べ物が胃に長時間滞留しないという特徴もあり、胃から腸の方へどんどんと食べ物が送られていくのだそう。しかし、長時間食べ物が消化管に滞留しないということで、栄養の吸収効率が20〜30%低い特徴あるそうです。
消化酵素の「予備分泌」現象
通常は食事開始後に分泌される消化酵素(消化液)が、大食い体質者では「食事の予測」に反応して事前に分泌されます。これにより、大量摂取時でも効率的な消化が可能になります。
小腸の絨毛構造が短い
小腸には絨毛と呼ばれる構造(ムーミンのニョロニョロみたいな形の突起)があります。


絨毛があることによって小腸の表面積を広げています(小腸の長さは6〜7mですが、絨毛を含めたその表面積はテニスコート一面分とも言われます)。絨毛によって栄養素を吸収する面積を広げているのですが、痩せの大食いの方は絨毛が短く、養吸収面積が通常より20%少ないことが確認されています。つまり、栄養の吸収効率が悪いということです。
ホルモンバランスの特徴
ホルモンとは、体内で合成・分泌され、血液や体液を通して運ばれ、特定の細胞や組織に作用する物質の総称を言います。


痩せの大食い体質の方では、特定のホルモンが多く分泌されていたり、ホルモンの効きが悪かったりするようです。
甲状腺ホルモンの過剰分泌
喉仏の下にある甲状腺からは代謝を促進するホルモンが分泌されます。


痩せの大食い体質の方の中には、甲状腺から分泌されるT3(トリヨードサイロンニン:正確には甲状腺で分泌されたT4(サイロキシン)が肝臓でT3に変換されます)の血中濃度が常に高く、細胞レベルでのエネルギー消費が活発な方もいらっしゃるようです。
ちなみに甲状腺が機能が亢進する(働きが過剰になる)病気にバセドウ病というものがあります。これは全身の代謝が活発になるため、多汗、暑がり、頻脈、体重減少などの症状が現れることがあります(*痩せの大食いの方がバセドウ病という意味ではありません)。
レプチン抵抗性
食欲に関わるホルモンとしてグレリンやレプチンがあります。この中でも脂肪細胞から分泌されるレプチンは満腹感を感じさせます。


レプチン抵抗性とは、レプチンの感受性が低い状態のことです。つまり、いくら食べても満腹感が得られにくくなります。大食いタレントの方が「お腹いっぱいになったことがない」と発言するのは、このレプチン抵抗性があるのかもしれません。
腸内環境の特殊性
痩せの大食い体質の方は、栄養を吸収する小腸の絨毛が短く、表面積が少ないとお伝えしましたが、腸内細菌にも違いがあるようです。


「痩せ菌」優位な細菌叢
痩せ菌とは腸内細菌のうち、体重コントロールや脂肪の蓄積を抑える働きがあるとされる細菌の総称です。アッカーマンシア菌、ブラウティア菌、ビフィズス菌などが有名ですが、痩せの大食い体質に多いとされているバクテロイデス菌は食べ物からエネルギーを吸収しにくく、脂肪の吸収を抑える働きがあります。これはつまり、腸内細菌の影響でエネルギー吸収の効率が悪くなっているということです。
医学的リスクと注意点
「いくら食べても太らない(太れない)」という一見羨ましい体質は、小腸の構造や腸内細菌の影響、内臓の動きが活発で食べ物が消化管に長く滞留できなかったり栄養の吸収効率が悪かったりすることによって生じます。そして、当然のことながら危険が潜んでいる可能性があるのです。例えば…


- 骨密度低下:過剰な代謝で骨粗鬆症リスクが懸念されます。
- 栄養欠乏症:栄養素の吸収効率が悪いため、栄養失調リスクが懸念されます。
- 消化器への負担:大量の食事で内臓への負担が慢性的にかかりやすいです。
増量戦略の3本柱
多くの方にとっては理解しにくいお悩みかもしれませんが、体重が増えにくい方の中には「太りたい(体重を増やしたい)」と思っています。ただ、「羨ましいって言われるから口には出せない」という方もいらっしゃいます。


以下に「太りたい場合」の代表的な戦略をまとめました。
1. カロリー密度最適化戦略
基本として、食事量・摂取カロリーを増やします(とは言え、痩せの大食い体質の方はそもそもたくさん食べているのですが…)。たとえば、以下のような高カロリー食になります。
摂取目標:基礎代謝 × 1.5 + 活動量 + 500kcalで計算します。
実践メニュー例:
時間帯 | 内容 | カロリー | 栄養戦略 |
---|---|---|---|
朝食 | 卵4個+アボカド+全粒粉トースト | 800kcal | 必須アミノ酸+良質脂質 |
間食 | ナッツミックス+ドライマンゴー | 600kcal | 高カロリー&食物繊維 |
昼食 | 豚丼(大盛)+味噌汁 | 1,200kcal | 糖質+タンパク質複合 |
夕食 | サーモンステーキ+MCTオイル野菜 | 1,000kcal | EPA/DHA+中鎖脂肪酸 |
2. 消化吸収効率向上法
痩せの大食い体質の方は栄養素の吸収効率が悪いため、吸収効率の良いものを摂取したり、吸収しやすいように工夫をします。
- 酵素カクテル:パパイン(パパイヤに含まれる酵素)+ブロメライン(パイナップルに含まれる酵素)を食前に摂取する。
- 腸内環境改善:ケフィア+納豆菌を併用して摂取する。
- 吸収促進:ココナッツオイル大さじ2杯/日摂取する。
3. エネルギー消費制御
消費カロリーを減らすことも有効です。
- 低温環境回避:室温22-24℃維持します。寒い環境だと体温を維持するために褐色脂肪細胞などが働き、代謝が亢進します。
- 非運動性活動抑制:意識しない日常生活の活動も控えるようにし、1日に座る時間・寝ている時間を増やすのも有効です。
- 褐色脂肪抑制:ショウガエキス1g/日を摂取します。ショウガエキスには血行促進、体を温める、抗酸化作用、冷え性改善、消化促進などが期待できます。
まとめ
「痩せの大食い」体質は、遺伝子・代謝・消化器が織りなす生体の神秘の一つでもあります。しかしそのメカニズムを理解すれば、適切なアプローチで健康的な体作りが可能です。


最後にまとめると、大切なのは、単に「食べる量」ではなく、「体がエネルギーをどう扱うか」に注目することです。「太りたい」というお悩みをお抱えの方の絶対数は「痩せたい」方よりも少ないかもしれませんが、今回の記事が参考になれば幸いです。逆のお悩みをお抱えの方はこちらを記事をお読みください。
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体質なのか、昔から人よりもたくさん食べているのに太らないんですよ。