内臓の不調が体の痛みとして現れるメカニズム:医学的根拠と対処法

いてて…また足がつっちゃった…何でこんなに毎晩のように足が攣るんだろう?ストレッチも毎日しているのに…。

マッサージも行って湿布も貼ってるし姿勢にも気をつけているのに、一向に肩こりが良くならないのよね…。

こんな経験はありませんか?仕事柄このようなお悩みはよく聞きます。もちろん、症状の原因は多岐に渡りますし個人差が大きいのですが、今回は体の痛みやコリの原因は筋肉や骨だけでなく、内臓の不調が関係していることがあるというお話をします。

内臓と体表の痛みやコリなどの症状に密接な関係があることは医学的な研究によって明らかになっており、この知識と理解が慢性的な症状の改善につながる可能性があります。少々専門的な内容になっているのですが、「こんなこともあるのか」と言うことをまず知っていただくきっかけになれば幸いです。

内臓と体の痛み・コリをつなぐ自律神経システム

私たちの体には、文字通り神経が張り巡らされています。脳と脊髄せきずいを中枢神経と言い、脳から枝分かれする脳神経と脊髄から枝分かれする脊髄神経を末梢神経と言います。さらに、末梢神経は体性神経たいせいしんけい(筋肉に指令を与える運動神経と体中の感覚を拾う感覚神経)と自律神経じりつしんけい(主に内臓を支配する交感神経こうかんしんけい副交感神経ふくこうかんしんけい)に分けられます。

人体の神経系の概略図。覚えなくて良いです。

この中でも意識せずに内臓の働きをコントロールするのが自律神経という神経システムです。この自律神経は、活動時に優位になる交感神経リラックス時に優位になる副交感神経に分けられます。

交感神経と副交感神経の働きの概略図です。何となく覚えておくと便利です。

さて、自律神経のうち交感神経背骨(胸椎きょうつい腰椎ようついの上部2つ)の中を通り、それぞれの内臓に枝分かれして分布しています。

胸椎は青色、腰椎はピンク色です。首の下から腰の上くらいに交感神経の細胞があると思ってください。

そしてこの交感神経は内臓の機能調節だけでなく、臓器の不調や痛みを感じ取る重要な役割も担っているのです。ここまででは神経系、特に交感神経のおおよその構造を知っておいてください。

内臓の不調が体の痛み・コリとして現れる5つのメカニズム

さて、ここまで主に交感神経の構造と仕組みについてお伝えしてきましたが、ここから内臓の不調が体の痛み・コリとして現れるメカニズムについてお伝えしていきます。

寝違えやぎっくり腰も内臓の不調から起きることもあります。

1. 神経分節支配による関連痛(最も重要なメカニズム)

神経分節支配しんけいぶんせつしはいによる関連痛かんれんつうの例としては以下のイラストが代表的です。

それぞれの内臓の不調が体表の痛みやコリとして現れる部位の代表的な部位を示したイラストです。

この関連痛は内臓からの不調(主に痛み信号)が交感神経を通って脊髄に到達する際、同じ脊髄分節レベルの体表(皮膚・筋肉)の神経と情報が混在し、脳が「体表の痛み」として誤認識することで生じます。

例えば、胆石によって右肩や背中に強い痛みが生じたり、心筋梗塞などの心臓病で左肩や左腕、顎の痛み、生理時の腹痛や腰痛が生じるのは関連痛によるものです(上記のイラストにも描かれています)。

2. 横隔神経を介した関連痛

言わずと知れた呼吸をするためのメインの筋肉である横隔膜は横隔神経おうかくしんけいと言う神経によって支配されています。

横隔膜はおおよそミゾオチの辺りにあります。焼肉で言うと「ハラミ」とか「サガリ」です。

そして横隔膜周辺の内臓に問題が生じると、横隔神経(第3〜5頸神経)を介して首や肩の痛み・コリとして現れることがあります。

例えば、横隔膜と直接的につながっている肝臓の疲労による右肩の痛み・コリ胃の不調による左肩の痛み・コリは横隔神経を介した反射として現れることがあります。他にも心臓や肺、脾臓などの不調もこの横隔神経を介して症状が現れることがあります。

3. 内臓-体性収束説による中枢感作

体表の感覚を拾う感覚神経も内臓の感覚を拾う交感神経の感覚線維も全て脊髄後角せきずいこうかくと言う部分に収束します。

脊髄を輪切りにした図です。専門的なので覚えなくても良いです。

そして脊髄後角で内臓からの痛み信号と体表からの痛み信号が収束し、継続的な内臓の不調により中枢神経系が感作される(ある刺激に対する反応が通常よりも大きくなることで、体表の痛覚過敏が生じます。

例えば、慢性的な内臓の炎症や機能低下が生じていると、その内臓を支配する神経を介して関連痛が生じる部位の感覚が過敏になったり、コリが慢性化することがあります。

4. 内臓-内臓反射

これまでは内臓の不調が神経を介した反射で体表の痛みやコリにつながることをお伝えしてきましたが、内臓と内臓をつなぐ反射もあります。

中央の内臓-内臓反射がその例です。

ひとつの内臓の不調が自律神経を介して他の内臓に影響を与え、それが体表症状として現れることがあります。

例えば心筋梗塞時の胃部不快感や悪心、胆石による胃や十二指腸の不快感などが挙げられます。神経の分布的にも構造的に近い内臓の不調が別の内臓の不調として現れることが多いです。

5. 体性-内臓反射(逆方向の影響)

最後に、体表の筋肉や筋膜の緊張や痛み・コリが、逆に内臓の機能に影響を与えることもあります。

これは左側の体性-内臓反射と呼ばれるものです。

例えば、転んだりして背中や腰を痛めてしまって筋肉に緊張や痛み・コリが生じると、その信号が神経を介して内臓(例えば消化器)に影響を与えることがあります。

これは東洋医学やオステオパシーなどの徒手療法で重視されている概念であり、施術にも応用されています(例:皮膚や筋肉にアプローチすることで内臓の状態を整える)。

内臓の不調と体の痛み・コリのメカニズムのまとめ

内臓の不調は体の痛み・コリに影響する5つのメカニズムについてお伝えしてきました。これらをまとめると、以下のような悪循環が生じる可能性があります。

  1. 初期段階: 内臓の問題が交感神経を通じて背骨周辺に伝わる
  2. 筋緊張: 問題のある脊髄分節レベルの筋肉が硬くなる
  3. 血行不良: 筋肉の持続的な緊張により血流が低下
  4. 症状悪化: コリや痛みが慢性化し、二次的・三次的な問題が発生

マッサージに行っても湿布を貼っても姿勢を良くしても症状が良くならないのは、このような悪循環が内臓から生じているからかもしれません。このような症状の事例として、以前に五十肩を例に記事を書いていますので、参考になれば幸いです。

内臓の不調を見分けるサインと対処法

さて、知識が増えると当然以下のような疑問が生じると思います。

じゃあ私の症状は何が原因なんでしょうか?

絶対的ではありませんが、以下のような症状パターンがある場合は内臓の不調による影響が大きいと考えて良いでしょう。

注意すべき症状パターン

  • 慢性的な背中の痛みで、マッサージや湿布で改善しない
  • 決まった時間帯に悪化する症状(食後、朝起床時など)
  • ストレスと連動して現れる症状
  • 季節の変わり目に悪化する症状

この辺りは注意深く、ご自身のお体と症状・不調の観察が必要になります。また、特に注意が必要なのは内臓の病態が命に関わるほど危険なレベルで進行している時に生じるレッドフラッグサイン(Red Flag Sign)というものがあります。これについては過去に記事を書いておりますので、ぜひ命を守るためにもお読みください。

そして内臓の状態が病的でないことを前提としてですが、以下のような対処アプローチが基本になります。

基本的な対処アプローチ

  • 生活習慣の見直し
  • 規則正しい食事時間
  • 適度な運動で血行促進
  • 質の良い睡眠の確保
  • ストレス管理
  • 深呼吸や瞑想で副交感神経を活性化
  • 趣味やリラクゼーション時間の確保
要は世間一般で言われているような日常生活の送り方が基本になります(個人差があります)。

もちろん、症状が重たい場合や内臓の病気が疑われる場合は医療機関への受診が重要となります。病的な状態になる前に、日頃からご自身のお体と症状をよくよく観察し、対処していけると良いと思います。

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まとめ:全身のつながりを意識した健康管理が重要

実際のところは内臓の不調による血流低下の影響など他のメカニズムも存在するのですが、今回お伝えしたように内臓と体表の症状は、複雑な神経ネットワークを通じて密接に関連しています。慢性的な痛みや不調の背景には、単純な筋肉や骨・関節の問題だけでなく、内臓の機能低下や自律神経の乱れが隠れている可能性があります。

機能停止するほどの疲労感も内臓の不調が原因かもしれません。

体を部分的に捉えるのではなく、全身のつながりを意識した健康管理を行うことで、根本的な改善につながる可能性があります。気になる症状が続く場合は、筋肉や骨だけでなく、内臓の状態についても専門医に相談することをお勧めします。

内臓をケアすることは、痛みのケアでもあり、全身の健康維持につながる重要なアプローチなのです。ちなみに当院では内臓へのアプローチも実施しております。

内臓整体の一例の動画です。

神奈川県伊勢原市の整体院すいっちでは、このような医学的根拠に基づいたアドバイスとともに、お客様一人ひとりに合った施術を提供しています。お体の不調でお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。ぜひ、以下の画像をタップして当院のホームページもご覧になってみてください。

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