歩行は”全身のポンプ運動”かも?|腕振り・体幹の使い方と循環を考える

ウォーキングをしている高齢者集団

健康のために毎日10,000歩は歩いてます!

ウォーキングは気軽にできる健康法の1つであると同時に、多くの人にとって日々の主な移動手段の1つでもあります。

ところで、ウォーキング(歩くこと)を目的としたとき、「脚をどれだけ動かすか」に意識を向ける方がいらっしゃいます。しかし、歩行をよく観察すると、実は腕の振り方や上半身のねじれ方も、歩行の質に大きく関わっていることが分かってきます。

今回の記事では、歩行時の腕振りや体幹のねじれが、力学的にどんな役割を持っているのか、そしてそれが筋肉や関節周囲の「巡り」にどう関係しうるのかを整理していきます。

なお本記事は、現時点で確認できる研究知見をもとにした一般的な情報提供であり、特定の症状の診断や治療を目的としたものではありません。気になる症状がある方は、医療機関や専門家にご相談ください。

歩行時の腕振りはなぜ生まれるのか

個人差はあるものの、歩くときには基本的に腕を振ります。この腕の振りはなぜ生まれるのかを整理していきます。

脚の動きを”打ち消す”役割

歩くとき、片方の脚が前に振り出されると、体全体としては、その脚の動きに引っ張られてわずかに回転しようとする力が生まれます。これに対して、反対側の腕を前に振ることで、その回転の力を打ち消し、体幹をまっすぐに保ちやすくしていると考えられています。

腕を振らずに歩こうとすると、この「打ち消し」の役割がなくなるため、体幹や腰まわりの筋肉が余分に働いて姿勢を保とうとする可能性があります。実際に、腕の振りを制限した状態で歩くと、身体全体で使うエネルギーが増えるという報告があります。

つまり腕を振ることは、単なる癖や見た目の問題ではなく、からだ全体の負担を減らすための、合理的な仕組みの一部と考えられます。

上半身と下半身の”ねじれ”の意味

歩行中、骨盤と胸郭(肋骨のかご)は、反対方向にわずかにねじれながら動いています。右脚が前に出るとき骨盤は右側がやや前方に、胸郭は逆に左側がやや前方に向く、というようなイメージです。このねじれによって、お腹や背中まわりの筋肉が、伸ばされてから縮むという動きを繰り返します。

このような「伸びてから縮む」筋肉の使い方は、運動学の分野ではストレッチ・ショートニング・サイクル(stretch-shortening cycle, SSC)と呼ばれています。SSCが働くと、筋肉や腱がゴムのように一度エネルギーを蓄えてから発揮できるため、同じ動きでも効率よく力を出せることが分かっています。

歩行中の体幹のねじれは、このSSCを引き出すきっかけの一つになっていると考えられます。

体をひねっている女性のイラスト
ラジオ体操でも勢いをつけるように体をひねる動作がありますが、あれもSSCを使っていると考えられます。

SSCと循環の関係

筋肉は「伸びてから縮む」ことで効率が良くなるというSSCについて触れましたが、実はSSCには効率以外の見方もあると考えられます。

筋肉は「伸び縮み」することで循環を助けている

SSCのように反復した筋肉の収縮と弛緩が起きている場合、ぎゅっと収縮したタイミングでは、筋肉の中の静脈が押しつぶされるようにして、血液が心臓に向かって押し出されます。逆に、筋肉がゆるむタイミングでは、押し出された分だけ血液が再び流れ込んできます。

つまり、筋肉の「収縮」と「弛緩」が交互に繰り返されることで、ポンプのような働きが生まれ、血液やリンパ液、組織液の巡りが促されると考えられています。この作用をそのまま筋ポンプ作用と言います。

筋ポンプ作用は「第2の心臓」としても有名なふくらはぎの筋肉が例に挙げられますが、基本的にどの筋肉でも同様の作用があります。

歩行のように、脚だけでなく体幹や腕までリズミカルに伸び縮みする動きは、この「筋ポンプ作用」を全身に広げていると言えるかもしれません。

SSCが自然に組み込まれた歩き方は、移動のためのエネルギー効率だけでなく、筋肉や腱、関節周囲の組織にとっての循環の促進にもつながっている可能性があります。

「固めたまま」の姿勢が続くとどうなるか

一方で、筋肉をある程度の強さで固めたまま長時間キープする使い方が続くと、血流が制限された時間が長くなりやすいと考えられています。デスクワークで肩や腰が張ってくる感覚をお持ちの方も多いと思いますが、これは同じ姿勢を保つために特定の筋肉が持続的に働き続けていることが一因とされています。

歩行においても、体幹をあまりねじらず、腕もほとんど振らないパターンでは、下半身だけで姿勢を保とうとする分、体幹や股関節周りの筋肉が「固めたまま」働く時間が増える可能性があります。

短時間であれば問題になりにくいものですが、日常的な移動の中でこの状態が積み重なると、からだの巡りの面では少し不利になるかもしれません。

買い物袋や荷物を持つ場面などでは腕の振りや体幹ねじりが出にくい歩行パターンになりやすいと考えられます。

腕振り・体幹のねじれを自然に引き出す工夫

じゃあ具体的に、腕をどう振って、体幹をどうねじればいいの?

という疑問が生じるかもしれません。

そこで一つの手段として紹介したいのが、ポール(ストック)を使って歩く「ノルディックウォーキング」です。

ノルディックウォーキングでは、両手に持ったポールを地面に突きながら歩きます。ポールを後ろに押し出す動きが、自然と肩やお腹まわりの筋肉に伝わり、腕振りと体幹のねじれが連動しやすくなるという特徴があります。

実際に、通常の歩行とノルディックウォーキングを比較した研究では、上半身の筋肉の使われ方や、体にかかる負荷のかかり方に違いが見られることが報告されています。また、同じ速度で歩いても、ノルディックウォーキングの方が心拍数や呼吸の負荷がやや高くなる傾向も示されています。

これは、ノルディックウォーキングが「通常の歩行よりも、上半身までしっかり使う運動になりやすい」ことを意味しています。腕の振り方や体幹のねじれがうまく感覚としてつかめない方にとって、ポールという道具を使うことで、その動きを体感しやすくなる可能性があります。

ただし、心臓や肺に負担がかかりやすい方、バランスに不安のある方は、始める前に医師や専門家に相談されることをおすすめします。誰にでも同じように向いている運動というわけではなく、体力や体の状態に合わせて選ぶことが大切です。

よくあるご質問

ここからはよくある質問に対する回答をご紹介します。これまでの復習代わりにもお読みください。

Q&Aの画像

「絶対に悪い」とは言い切れませんが、腕振りには脚の動きによる回転を打ち消し、体幹を安定させる役割があると考えられています。

腕振りを制限すると身体全体で使うエネルギーが増えるという報告もあるため、特に理由がない場合は、自然に腕を振って歩く方が体への負担は少なくなりやすいと考えられます。

両手に荷物を持つと腕振りや体幹のねじれが起きにくくなるため、可能であればリュックサックなどを使い、両手を空けておくのがおすすめです。

片手に荷物を持つ場合は、時々持つ手を変えることで、左右どちらかに偏った体の使い方が続くのを避けやすくなります。

体幹のねじれは、腕振りと連動して自然に起きるものなので、強く意識してねじろうとする必要は基本的にありません。

むしろ意識しすぎると不自然な動きになることもあるため、自然な腕振りを心がける中で、結果的にねじれが引き出される、という捉え方がよいと思います。

いいえ、一時的に筋肉を固めて姿勢を保つこと自体は、立ったり座ったりする上で必要な動きです。問題になりやすいのは、その状態が長時間続くことです。

歩行のように、収縮と弛緩が交互に繰り返される動きを日常の中に取り入れることで、固まった状態が続く時間を減らすことができると考えられます。

腕の振り方や体幹のねじれをうまく感覚としてつかめない方、通常のウォーキングだけでは上半身をあまり使えていないと感じる方には、体感しやすくする手段の一つになり得ます。

ただし、通常のウォーキングよりも心拍数や呼吸の負荷が上がりやすいという報告もあるため、心臓や肺に負担がかかりやすい方、バランスに不安のある方は、始める前に医師や専門家に相談することをおすすめします。

  1. 腕振りは歩行のエネルギーコスト低減に関わる
    Ortega JD, Fehlman LA, Farley CT. Effects of aging and arm swing on the metabolic cost of stability in human walking. J Biomech. 2008;41(16):3303-3308.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18814873/
  2. 腕振りは体幹回旋を抑え、歩行を安定させる
    Collins SH, Adamczyk PG, Ferris DP, Kuo AD. Dynamic arm swinging in human walking. Proc Biol Sci. 2009;276(1673):3679-3688.
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2817299/
  3. ストレッチ・ショートニング・サイクル(SSC)は、筋や腱の力発揮効率を高める
    Seiberl W, et al. Editorial: The Stretch-Shortening Cycle of Active Muscle and Muscle-Tendon Complex: What, Why and How It Increases Muscle Performance? Front Physiol. 2021;12:693141.
    https://www.frontiersin.org/journals/physiology/articles/10.3389/fphys.2021.693141/full
  4. ノルディックウォーキングは通常歩行より上肢・体幹の関与が増え、運動強度も上がりやすい
    Tschentscher M, Niederseer D, Niebauer J. Health benefits of Nordic walking: a systematic review and meta-analysis. Am J Prev Med. 2013;44(1):76-84.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23332399/
  5. 高齢者においても腕振りやノルディックウォーキングは、機能維持や歩行能力に関係する
    Improvements in functional capacity from Nordic walking: a randomized-controlled trial among elderly people. J Aging Phys Act. 2012;20(1):93-105.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21949243/

関連記事

本記事では、歩行時の腕振りや体幹のねじれ、循環との関係を中心に解説しました。歩行について他の視点から掘り下げた記事もありますので、気になるものがあればあわせてご覧ください。

江戸時代の浮世絵
高地を歩く部族の大人
海辺の散歩

まとめ:歩き方を「移動の手段」以上のものとして見る

歩行は、多くの人にとって主な移動手段ですが、それだけのものではありません。腕の振りや体幹のねじれには、からだ全体の負担を減らし、筋肉や関節周りの巡りを助けるという役割があると考えられます。

今回の記事を振り返りましょう。

  • 腕振りは、脚の動きによる回転を打ち消し、体幹を安定させる働きがある
  • 体幹のねじれは、SSCという仕組みを通じて、筋肉や腱を効率よく使う手助けになる
  • 筋肉の伸び縮みは、血流やからだの巡りを促すポンプのような役割も持つ
  • 体を固めたまま長時間過ごす使い方は、巡りの面では不利になりうる
  • ノルディックウォーキングは、腕振りと体幹の連動を体感しやすくする一つの手段になりうる

次回の記事では、こうした視点を踏まえて、中高年の方のウォーキングでよく見かける「もったいない歩き方」と、その具体的な見直しポイントについてお伝えする予定です。

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