このような話を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。先日も元理学療法士の私の母親が言っていてビックリしたのですが、整体院のお客様にもこのようなご質問をいただきます。果たして、この俗説は科学的に正しいのでしょうか?
少し結論を言うと、この問題には多くの誤解があると感じています。今回は、最新の研究データと生理学的根拠に基づいて、この俗説の真偽を詳しく検証していきます。なお、今回の記事は私の臨床経験と科学的な知見を組み合わせた内容になっておりますので、あくまで参考程度にお読みいただければと思います。
もくじ
「ボディビルダーの筋肉は実用的ではない」俗説の背景
この俗説が広まった背景には、いくつかの要因があります。まず、ボディビルダーが競技で重視するのは見た目の美しさであり、必ずしも最大筋力やパワーが評価対象ではないという事実があります(Bodybuildingという名称からもそれがお分かりになると思います)。また、実際にボディビルダーが他の競技(例えば野球やサッカー)で必ずしも優れたパフォーマンスを発揮できるとは限らないという観察もあります。
しかし、これらの現象を筋肉が実用的ではないと結論づけるのは、科学的な視点から見ると大きな誤解なのです。

筋力と競技パフォーマンスの違い
重要なポイントは、筋力そのものと競技パフォーマンスは別物であるということです。例えば、野球の投球で速いボールを投げるには、筋力だけでなく以下の要素が必要です。
- 適切な身体の使い方(運動学習)
- 関節可動域の最適化
- 神経系の協調性
- タイミングと技術
- 精神的な要因
つまり、ボディビルダーが特定の競技で優れたパフォーマンスを発揮できないからといって、その筋肉が「実用的ではない」わけではないのです。

科学的根拠①:筋肉の生理学的断面積(PCSA)と筋力の関係
筋生理学の基本原理として、筋肉の生理学的断面積(PCSA:Physiological Cross-Sectional Area)が大きいほど、発揮できる筋力も大きくなることが確立されています。
研究データによると、訓練を受けた群では筋肉断面積が81.6±11.8cm²(未訓練群)から104.1±12.3cm²(訓練群)に増加し、それに伴い最大筋力も742±100N(未訓練群)から992±162N(訓練群)へと有意に向上しました。この研究では、筋力と筋肉断面積の間に有意な正の相関(r=0.56, p<0.001)が確認されています。これは、筋肉が大きいほど筋力が強いという基本的な関係を科学的に裏付けるものです。
このことから、ボディビルダーの筋肉は一般人と比較して明らかに大きいため、単純な筋力発揮能力においては確実に優れていると言えるでしょう。
科学的根拠②:神経系の適応と筋力発揮
しかし筋力発揮には、筋肉の大きさ以外にも神経系の要因が大きく関わります。具体的には以下の要素が重要です。
- 運動単位の動員能力:より多くの筋線維を同時に活動させる能力
- 発火頻度の調整:筋線維への刺激の頻度を調整する能力
- 筋間協調性:複数の筋肉を効率的に連携させる能力
- 運動学習:特定の動作パターンを習得する能力
最新の研究では、高負荷トレーニング(80%1RM)と低負荷トレーニング(30%1RM)を比較した結果、筋肥大効果は同等でも、筋力向上効果は高負荷トレーニングの方が有意に大きいことが示されています。これは、高負荷トレーニングによって神経系の適応がより効果的に起こるためです。具体的には…
- 随意活性化(VA)の向上:最大筋力発揮時の筋活動が増加
- EMG振幅の増加:筋電図で測定される筋活動レベルが向上
- 運動効率の改善:同じ相対負荷でより少ない神経コストで動作可能
科学的根拠③:トレーニング特異性の原理
運動生理学における「特異性の原理」とは、トレーニングによる適応は、そのトレーニングの特徴に特異的に起こるという原理です。ボディビルダーのトレーニングは主に筋肥大を目的としており、以下の特徴があります。
- 中程度の負荷(60-80%1RM)
- 高回数(8-15回)
- 短い休憩時間(1-3分)
- 高頻度(週2-3回)
一方で、競技特異的な動作(例:野球の投球、サッカーのシュート)では、以下の要素が重要になります。
- 動作パターンの習得:特定の動きを効率的に行う技術
- パワー発揮能力:短時間で大きな力を発揮する能力
- 協調性:複数の関節・筋肉を連携させる能力
- タイミング:適切なタイミングで力を発揮する能力
これらの能力は、筋肉の大きさとは別の要因によって決まるため、ボディビルダーが特定の競技で優れたパフォーマンスを発揮できないのは当然のことなのです。

整体師としての現場体験:筋力と機能性の実際
整体師としての経験としても以下のことが言えます。
- ボディビルダーの単純筋力は確実に強い:アームカールやベンチプレスなど、単純な筋力テストでは、ボディビルダーは一般人よりも明らかに優れた結果を示します。
- 競技パフォーマンスは筋力だけでは決まらない:しかし、野球選手の投球速度や格闘技の打撃力などは、筋力以外の要因(技術、タイミング、協調性)が大きく影響しす。
私が担当した症例の中で印象的だったのは、体が鍛えるのが好きでジム通いが趣味の方が肩の痛みで来院されたケースです。その方はボディビルダーほどではないにしても非常に発達した筋肉を持っていました。しかし、日常生活動作(物を持ち上げるなど)や肩のトレーニングでは、適切な身体の使い方ができずに痛みを生じていました。
これは筋肉が「実用的ではない」のではなく、機能的な動作パターンの学習が不十分だったことが原因でした。適切な動作パターンをお伝えしたところ、その筋力を日常生活に活かすことができるようになりました。
他の筋肉に関する俗説も検証
この他にも筋肉や筋トレについての俗説がいくつかあるので、Q&A方式で検証してみます。

また別件ではありますが、他にも俗説を検証した記事もありますのでご興味があればご覧ください。
科学的根拠に基づく実践的アドバイス
ボディビルダーとまでは行かなくても、運動によって鍛えた筋力を日常生活や競技に活かすためには、以下の点が重要です。
1. 機能的な動作パターンの習得
- 日常動作(立つ、座る、歩く、持ち上げるなど)の正しいフォームを身につける
- 複数の関節を連携させる複合動作の練習
2. 神経系の協調性向上
- バランストレーニングの実施
- 不安定な環境でのトレーニング
- 反応速度を向上させるトレーニング
3. 競技特異的な動作の練習
- 特定の競技に必要な動作パターンの反復練習
- 競技特異的な負荷やスピードでのトレーニング
整体師としての推奨事項
当院では、以下のような指導を行っています。
筋力と機能性の両方を重視したアプローチ
- 筋力トレーニング + 機能的動作訓練
- 筋肥大 + 神経系適応の組み合わせ
- 個別の身体状況に合わせたプログラム設計
日常生活での身体の使い方指導
- 正しい姿勢の維持方法
- 効率的な動作パターンの習得
- 怪我の予防と機能改善
最新研究が示す今後のトレーニングの方向性
最新の研究では、個人の遺伝的特性や身体的特徴に応じたパーソナライズされたトレーニングの重要性が強調されています。
また、従来の「量」重視の筋肥大から、「質」を重視した筋適応への転換が注目されています。これにより、見た目の大きさだけでなく、機能性も向上させることが可能になります。
筋力、パワー、協調性、柔軟性を統合的に向上させるアプローチが、真の意味での「実用的な筋肉」を作るために必要であることが示されています。
いずれにせよ、鍛える目的に合わせてさまざまなアプローチを組み合わせることが重要だと私は考えています。
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まとめ:科学的視点で見る筋力と機能性
「ボディビルダーの筋肉は実用的ではない」という俗説は、科学的根拠に基づいて検証すると、以下のことが明らかになります。
俗説の誤解
- 筋肉が大きい=筋力が強い(これは科学的事実)
- 筋力が強い≠競技パフォーマンスが高い(これも正しい理解)
真の問題
- 筋力と機能性は別の要素
- 適切な動作パターンの学習が重要
- 競技特異的な適応が必要
科学的結論
- ボディビルダーの筋肉は確実に「実用的」
- ただし、その筋力を効果的に使うための技術習得が重要
- 筋力+機能性の両方を向上させることが理想的
今回の記事では、私の整体師としての経験と最新の科学的知見を組み合わせて、この俗説の真偽を検証しました。重要なのは、「大きい筋肉か、機能的な筋肉か」という二択的な思考ではなく、両方を適切に発達させることで、真に健康で機能的な身体を作ることだと考えています。


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ボディビルダーの人って筋肉大きいですけど、力はないって言うわよねぇ?