
子どもに怒鳴ってしまう自分を止められない…
以前に投稿したトラウマに関する記事、第1部「トラウマは身体に記憶される|世代間伝達のメカニズムと身体症状」と第2部「スポーツ指導と体罰の世代間伝達|日本の社会的変化と身体への影響」を読まれた方の中には、こうしたご質問を持たれている方も多いかもしれません。
では、すでに受けてしまったトラウマの影響から、どのように回復していけばよいのでしょうか?
本記事では、神経科学の最新知見に基づいた身体と心の両面からのアプローチを、具体的にご紹介していきます。専門的な治療だけでなく、日常生活の中で実践できるセルフケアの方法も含めて解説します。
なお、本記事は現代の心理学・神経科学的観点で確認されている情報をベースにしていますが、医学知識は常に更新されます。あくまで参考程度にお読みいただき、ご自身の心身の健康について不安な点がある場合は、必ず医療機関や心理専門家(精神科医、心療内科医、公認心理師、臨床心理士)にご相談ください。
もくじ
トラウマからの回復とは何か
まず、「トラウマからの回復」とは何を意味するのかについて、正しく理解することが大切です。


回復の誤解|「忘れること」ではない
多くの方が、「トラウマから回復する」ことを 「過去の出来事を忘れること」 だと誤解されています。
しかし、神経科学的な観点から見ると、回復とは 「忘れること」ではなく、「過去の出来事に対する身体と心の反応が変わること」 を意味します。
具体的には、以下のような変化が起こります。
- 過去の出来事を思い出しても、身体が過剰に反応しなくなる
- 日常生活の中で、トラウマを想起させる状況に遭遇しても、冷静でいられるようになる
- 慢性的な身体症状(肩こり、頭痛、腰痛など)が軽減する
- 感情のコントロールがしやすくなる
- 人間関係での不安や恐怖が減少する
つまり、「出来事そのものは記憶に残っているが、それに対する身体と心の反応パターンが変わる」 のです。
神経可塑性|脳は変わることができる
第1部でも触れましたが、脳には 「神経可塑性」 という重要な特性があります。
神経可塑性とは、脳が一生を通じて変化し、新しい神経回路を形成できる能力のことです。
つまり、たとえ何十年前のトラウマであっても、適切なアプローチによって脳と神経系のパターンを変えることが可能なのです。
2019年に発表された研究では、トラウマ治療を受けた患者の脳画像を分析した結果、以下のことが明らかになりました。
- 治療前に過剰に活性化していた扁桃体(恐怖の中枢)の活動が正常化した
- 前頭前皮質(理性的判断を司る領域)の活動が増加した
- 海馬(記憶の整理を行う領域)の機能が改善した
これは、適切な治療やアプローチによって、トラウマで変化した脳の状態を回復させることができるという科学的証拠です。
回復のプロセスは人それぞれ
重要なのは、回復のプロセスは一人ひとり異なるということです。
そして以下のような要因が、回復のスピードや方法に影響します。
- トラウマの種類と期間(単一のトラウマか、長期間にわたる繰り返しか)
- トラウマを受けた年齢(幼少期か、成人後か)
- 現在の生活環境とサポート体制
- 本人の気質やレジリエンス(回復力)
- これまでに受けてきた治療やケアの経験
ですから、「この方法で必ず回復できる」という画一的なアプローチは残念ながら存在しません。
大切なのは、様々なアプローチの中から、自分に合った方法を見つけていくことです。


安全感の回復|身体から始まる変化
トラウマからの回復の具体的なアプローチ方法についてお伝えする前に、回復に向かうための基本的な考え方をお伝えします。
まず、トラウマ被害者にとって最も根本的な問題は、「世界が安全ではない」という信念です。
第1部・第2部で述べた通り、体罰やトラウマを受けた人の脳では、扁桃体が過剰に活性化し、常に「危険が迫っている」と信号を送り続けています。
では、この「危険モード」から「安全モード」へ神経系を切り替えるには、どうしたらよいのでしょうか?
「安全感」とは何か
まず、心理学における安全感とは、単なる「危険がない」という状態ではなく、「今ここは大丈夫だ」という無意識的な認識を指します。
トラウマ被害者にとって、この無意識的な「安全感」は、失われています。


身体を通じた安全感の回復
興味深いことに、安全感は身体への積極的な働きかけを通じて、回復する可能性があるのです。例えば、以下のような身体的な経験です。
- 安全な環境での一貫性のある身体接触
- 自分のペースで進められる運動
- 深い呼吸を通じた副交感神経の活性化
- 筋肉の緊張パターンの解放
これらが、脳に「今は安全だ」というシグナルを送り、神経系を徐々に「安全モード」へ切り替わっていくのです。
より具体的な身体からのアプローチについては本記事の中盤以降にご紹介します。
専門的な治療アプローチ
身体的なアプローチの前に、トラウマ治療として科学的に効果が実証されている専門的なアプローチを、心理療法を中心にご紹介します。
ただし、これらは必ず心理専門家の指導の下で行う必要があることを御承知おきください。


認知行動療法(CBT)
認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy:CBT)は、トラウマに関連する思考パターンと行動パターンを変えていく治療法です。
- 治療の焦点:トラウマに関連する否定的な思考パターン(「自分は価値がない」「世界は危険だ」など)を特定し、より現実的な思考に変えていく
- 期間:通常12〜20回のセッション
- 科学的根拠:複数の研究で、PTSD症状の軽減に効果があることが実証されている
- CBTの具体的なプロセス:
- トラウマ体験に関連する自動思考(無意識的に浮かぶ否定的な考え)を特定する
- その思考が、実際の現実とどう異なるかを検証する
- より適応的で現実的な思考に置き換える練習をする
- 新しい思考パターンを日常生活で実践する
EMDR(眼球運動による脱感作と再処理)
EMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing)は、眼球運動を使用したトラウマ処理の技法です。
この治療法は1989年にアメリカの心理学者フランシーン・シャピロによって開発され、現在では世界保健機関(WHO)もPTSD治療の推奨療法として認めています。
- EMDRの基本的なプロセス:
- トラウマ記憶を思い浮かべながら、セラピストの指示に従って眼球を左右に動かす
- この眼球運動により、脳の情報処理が促進される
- トラウマ記憶が「過去の出来事」として適切に統合される
- 記憶を思い出しても、身体的・感情的な苦痛が軽減する
- なぜ眼球運動が効果的なのか?
完全なメカニズムは解明されていませんが、現在有力な仮説は以下の通りです。
2018年の研究では、EMDR治療を受けたPTSD患者の約60〜80%が、症状の有意な改善を示したことが報告されています。
トラウマフォーカスト認知行動療法(TF-CBT)
TF-CBT(Trauma-Focused Cognitive Behavioral Therapy)は、特にトラウマに焦点を当てた認知行動療法です。通常のCBTと異なり、以下の要素が含まれます。
- トラウマ記憶への段階的な曝露(エクスポージャー)
- トラウマ体験を言葉にして整理する「トラウマナラティブ」の作成
- 家族やサポート者を含めた治療
特に、子ども時代のトラウマ(体罰、虐待など)に対して効果的であることが研究で示されています。
ソマティック・エクスペリエンシング(SE)
ソマティック・エクスペリエンシング(Somatic Experiencing:SE)は、ピーター・リヴァイン博士によって開発された、身体感覚を通してトラウマを処理する治療法です。
この治療法の特徴は、トラウマ記憶を詳しく話すことを必要としないという点です。
- SEの基本原理:トラウマは、脅威に対する身体の自然な反応(闘争・逃走反応)が完結しなかったことで生じます。SEでは、その未完了の反応を身体レベルで完結させることを目指します。
- 具体的なプロセス:
- セラピストの誘導の下、身体の感覚に注意を向ける
- トラウマ時に凍りついた身体反応(震え、熱感、緊張など)を感じる
- その感覚を安全な環境で少しずつ解放していく
- 身体が「危機は去った」と認識し、神経系が正常化する
2017年の研究では、SE治療を受けたトラウマ患者の身体症状(慢性痛、筋緊張など)が有意に改善したことが報告されています。
薬物療法の位置づけ
トラウマ治療において、薬物療法(抗うつ薬、抗不安薬など)が処方されることもあります。
ただし、重要なのは以下の点です。
- 薬物療法は、症状を一時的に緩和する補助的な役割である
- 薬だけではトラウマの根本的な処理はできない
- 心理療法と組み合わせることで、より効果的になる
薬物療法については、必ず精神科医などの専門医に相談してください。
身体からのアプローチ|整体とボディワーク
ここまでトラウマ治療の専門領域である心理療法を中心にご紹介してきましたが、実は身体へのアプローチもトラウマ回復において非常に重要です。
第1部で解説した通り、トラウマは「身体に記憶」されています。ですから、心だけでなく、身体からのアプローチも必要なのです。


なぜ整体やボディワークが有効なのか
トラウマを抱えている方の身体には、以下のような特徴があります。
- 慢性的な筋肉の緊張(特に肩、首、背中)
- 呼吸が浅く、副交感神経の活性が低い
- 身体感覚への気づきが鈍い(身体の声を聞けない)
- 「警戒モード」の神経系が常に活性化している
整体やボディワークは、これらの身体レベルの変化に直接働きかけることができます。
整体の役割
ここでご紹介する内容は、当院(整体院すいっち)での実践例であり、すべての整体院で同様のアプローチが行われているわけではありません。
繰り返しになりますが、トラウマ治療そのものは心理療法士や精神科医の専門領域であり、整体はあくまで身体レベルでの補完的サポートです。
トラウマを抱えている可能性のある方に対して、当院では以下のようなアプローチを心がけています。
- 安全な環境の提供
- 施術前に十分な説明を行い、何をするのかを明確に伝える
- 施術中も声をかけ、身体の反応を確認しながら進める
- 無理な施術は行わず、本人のペースを尊重する
トラウマ経験者にとって、「安全である」と感じられる環境が最も重要です。
- 神経系の調整
- 優しいタッチで、副交感神経(リラックスの神経)を活性化させる
- 呼吸のリズムに合わせた施術で、自律神経のバランスを整える
- 急激な刺激を避け、身体が「安全である」と認識できるようにする
トラウマで過敏になっている神経系を、穏やかに整えていきます。
- 身体感覚への気づきのサポート
- 「今、どこに緊張を感じますか?」といった質問を通して、身体への気づきを促す
- 施術によって変化する身体感覚に注意を向けてもらう
- 「痛み」だけでなく、「心地よさ」や「温かさ」といったポジティブな感覚にも気づいてもらう
トラウマ経験者の多くは、身体感覚から切り離されています(専門的に解離と言います)。整体の施術を通して、「身体の声を聞く」練習をすることができます。
- 慢性的な筋緊張のリリース
- 肩甲骨周囲の深層筋の緊張を緩める
- 首から後頭部にかけての筋肉の過緊張を調整する
- 呼吸筋(横隔膜、肋間筋)の柔軟性を回復させる
第2部で述べた通り、体罰などのトラウマは、特定の筋肉に慢性的な緊張パターンを形成します。
ヨガとマインドフルネスムーブメント
ヨガは、身体と心を統合するアプローチとして、トラウマ回復において非常に有効であることが研究で示されています。


- トラウマ回復におけるヨガの効果:
- 自律神経系のバランスが改善する
- 身体感覚への気づきが向上する
- PTSD症状(侵入的思考、回避行動、過覚醒)が軽減する
- 慢性的な身体症状(痛み、緊張)が改善する
2014年に発表された研究では、トラウマ経験者を対象にした10週間のヨガプログラムによって、PTSD症状が有意に改善したことが報告されています。
- トラウマセンシティブヨガの原則:
通常のヨガとは異なり、トラウマを抱えた方向けのヨガでは、以下の原則が重視されます。
ポリヴェーガル理論と身体アプローチ
近年、トラウマ治療の分野で注目されているのが、スティーブン・ポージェス博士(アメリカの心理学者、神経科学者)の 「ポリヴェーガル理論」 です。
この理論は、自律神経系の働きを3つの段階に分けて説明します。
| 神経系の状態 | 特徴 | トラウマとの関連 |
|---|---|---|
| 腹側迷走神経複合体 | 社会的関わり、安全、リラックス | 健康な状態。トラウマ回復の目標 |
| 交感神経系 | 闘争・逃走反応、活動、警戒 | トラウマ時に活性化。過覚醒症状の原因 |
| 背側迷走神経複合体 | シャットダウン、凍りつき、解離 | 圧倒的な脅威に対する反応。重度のトラウマで見られる |
トラウマ経験者の多くは、交感神経系(警戒モード)か背側迷走神経複合体(シャットダウンモード)に固定されている状態です。
身体アプローチの目標は、腹側迷走神経複合体(安全・リラックスモード)を活性化させることです。
そのための具体的な方法として、以下があります。
- ゆっくりとした深い呼吸
- 優しいタッチやマッサージ
- リズミカルな動き(揺れる、歩く)
- 歌を歌う、ハミングする(迷走神経を直接刺激する)


日常生活でできるセルフケア
ここからは、専門家の治療を受けていない方でも、日常生活の中で実践できるセルフケアをご紹介します。
ただし、重度のトラウマやPTSDの症状がある場合は、必ず心理専門家に相談してください。
グラウンディング(地に足をつける)
「グラウンディング」とは、過去のトラウマ記憶や不安な思考から離れて、「今ここ」の現実に意識を戻す技法です。
トラウマを抱えている方は、しばしば過去の記憶にとらわれたり、未来への不安で頭がいっぱいになったりします。そのような時に、グラウンディングが役立ちます。
5-4-3-2-1法(簡単にできるグラウンディング):
- 5つの「見えるもの」を言葉にする(例:机、窓、時計、コップ、ペン)
- 4つの「触れるもの」を感じる(例:椅子の感触、床の硬さ、服の肌触り、空気の冷たさ)
- 3つの「聞こえる音」に注意を向ける(例:時計の音、車の音、自分の呼吸音)
- 2つの「匂い」を意識する(例:コーヒーの香り、石鹸の匂い)
- 1つの「味」を感じる(例:口の中の味、水を飲んで味わう)
この方法は、五感を使って「今ここ」に意識を戻すことで、トラウマ記憶からの解離を防ぎます。
足裏グラウンディング:
- 椅子に座るか、立った状態で、足の裏を床にしっかりつける
- 足裏の感覚に注意を向ける(床の硬さ、温度、圧力)
- 足の裏から、地面とつながっている感覚を感じる
- 「自分は今、ここにいる。地面に支えられている」と心の中で唱える
この方法は、不安や恐怖を感じた時に、安定感を取り戻すのに役立ちます。


呼吸法
第2部で述べた通り、トラウマ経験者の多くは呼吸が浅くなっています。
深い呼吸は、副交感神経を活性化させ、身体を「安全モード」に切り替える効果があります。
4-7-8呼吸法:
- 4秒かけて、鼻から息を吸う
- 7秒間、息を止める
- 8秒かけて、口からゆっくり息を吐く
- これを3〜4回繰り返す
この呼吸法は、特に就寝前や、不安を感じた時に効果的です。
腹式呼吸:
- 仰向けに寝るか、楽な姿勢で座る
- 片手をお腹に、もう片手を胸に置く
- 鼻からゆっくり息を吸い、お腹が膨らむのを感じる(胸はあまり動かさない)
- 口からゆっくり息を吐き、お腹がへこむのを感じる
- これを5〜10分間続ける
腹式呼吸は、横隔膜を動かすことで迷走神経を刺激し、リラックス効果を高めます。


プログレッシブ・マッスル・リラクゼーション(PMR)
PMR(Progressive Muscle Relaxation:漸進的筋弛緩法)は、筋肉を意図的に緊張させてから弛緩させることで、深いリラックス状態を作る技法です。
トラウマで慢性的に緊張している筋肉を、意識的にコントロールする練習になります。
- 基本的な手順:
- 静かな場所で、椅子に座るか仰向けに寝る
- 足先から順番に、各部位の筋肉を5〜10秒間ギュッと緊張させる
- 次に、一気に力を抜き、15〜20秒間その部位の弛緩を感じる
- 順番:足先 → ふくらはぎ → 太もも → お尻 → お腹 → 胸 → 腕 → 肩 → 首 → 顔
- ポイント:
- 緊張させる時は、痛みを感じない程度に
- 弛緩の感覚をしっかり味わう(これが最も重要)
- 毎日10〜15分間続けることで、効果が高まる


ボディスキャン瞑想
ボディスキャン瞑想は、身体の各部位に順番に注意を向けていく瞑想法です。
これにより、身体感覚への気づきが向上し、トラウマによる解離(身体感覚からの切り離し)を改善することができます。
- 基本的な手順:
- 仰向けに寝るか、楽な姿勢で座る
- 目を閉じて、自然な呼吸に注意を向ける
- 左足の指先から始めて、その部位の感覚に注意を向ける(温度、重さ、緊張、痛みなど)
- 判断せず、ただ感じるだけ
- 足先 → 足首 → ふくらはぎ → 膝… と順番に全身をスキャンしていく
- 最後に、全身の感覚を一度に感じる
- 注意点:トラウマが重度の場合、ボディスキャンで身体に注意を向けることが苦痛になることがあり、時にフラッシュバックや強い不安を引き起こすことがあります。不快感や苦痛を感じた場合は、すぐに中止し、心理専門家の指導の下で行ってください。


ジャーナリング(書く瞑想)
感情や思考を紙に書き出すことは、トラウマ記憶を整理し、感情を客観視するのに役立ちます。
エクスプレッシブ・ライティング:
- 毎日15〜20分間、タイマーをセットする
- トラウマ体験や、それに関連する感情・思考を、思いつくまま書く
- 文法や構成は気にせず、自由に書く
- 書いた後、必ずしも読み返す必要はない
- これを3〜5日間続ける
感謝のジャーナル:
トラウマからの回復において、ポジティブな感情も同様に重要です。
- 毎日寝る前に、その日あった「良かったこと」を3つ書く
- 小さなことでも良い(例:美味しいコーヒーを飲んだ、友人と笑った、天気が良かった)
- なぜそれが良かったのか、少し説明を加える
この習慣は、脳のネガティビティ・バイアス(ネガティブな情報に注意が向きやすい傾向)を修正する効果があります。


安全な人間関係の構築
トラウマ回復において、安全で支持的な人間関係は最も重要な要素の一つです。
- 信頼できる友人や家族と定期的に連絡を取る
- トラウマ経験者のサポートグループに参加する
- 孤立を避け、社会的つながりを維持する
ただし、重要なのは 「安全な」関係 であることです。否定的だったり、トラウマを軽視したりする人との関係は、回復を妨げる可能性があります。


規則正しい生活リズム
基本的なことですが、以下の生活習慣は神経系の調整に非常に重要です。
- 毎日同じ時間に就寝・起床する
- 1日3食、規則正しく食事を摂る
- 適度な運動を習慣化する(散歩、ヨガ、ストレッチなど)
- カフェインやアルコールの過剰摂取を避ける
トラウマで乱れた神経系を整えるためには、予測可能で安定した日常が大切です。


ここまででお伝えしたいのは、トラウマからの回復は、専門家による心理療法や整体院での身体的アプローチだけでなく、日常生活から心身を整えていくことも重要だということです。
世代間伝達を断ち切るために
ここからは、第1部・第2部で述べてきた「世代間伝達」のサイクルを断ち切るための具体的なアプローチについて解説します。


親としてできること
もしあなたが、自分自身が体罰を受けた経験があり、現在親の立場にあるなら、以下のことが重要です。
- 自分のトラウマに気づく
まず、「自分も体罰を受けた経験がある」「そしてそれが今の自分に影響を与えているかもしれない」と気づくことが第一歩です。
気づきがなければ、無意識のうちに同じパターンを繰り返してしまいます。
- 感情的になる前の「サイン」を知る
体罰や怒鳴ってしまう前には、必ず身体的なサインがあります。
- 呼吸が速くなる
- 心臓がドキドキする
- 拳を握りしめる
- 顔が熱くなる
- 頭の中が真っ白になる
これらのサインに気づいたら、一度その場を離れることが有効です。
「ちょっと待って。お父さん(お母さん)、今、深呼吸してくるね」と子どもに伝え、別の部屋で深呼吸や上記のグラウンディング法を実践してください。
- 「タイムアウト」の習慣化
感情的になりそうな時は、自分自身にタイムアウト(一時中断)を与えることを習慣化しましょう。
これは決して「逃げ」ではなく、「意識的な選択」 です。
- 「今、自分は感情的になっている」と気づく
- 「このまま反応すると、子どもを傷つけてしまうかもしれない」と考える
- 「5分間、別の部屋で落ち着いてから、戻ってこよう」と決める
- 子どもに謝る勇気
もし感情的に怒鳴ってしまったり、手を上げてしまった場合は、後から必ず子どもに謝ってください。
「さっきは怒鳴ってしまって、ごめんね。お父さん(お母さん)の言い方は良くなかった」
この謝罪は、以下の点で非常に重要です。
- 子どもが「自分が悪いのではない」と理解できる
- 大人も間違えることがあり、それを認めて謝ることが大切だと学べる
- 親子の信頼関係を修復できる
- ポジティブな関わり方を増やす
体罰や怒鳴ることを減らすだけでなく、ポジティブな関わり方を意識的に増やすことも重要です。
- 子どもの良い行動を具体的に褒める
- スキンシップ(ハグ、頭をなでるなど)を増やす
- 子どもの話を、批判せず最後まで聞く
- 一緒に遊ぶ時間を作る
最新の研究では、ポジティブな関わりの比率が、ネガティブな関わりの5倍以上あると、子どもの健全な発達が促進されることが示されています。


指導者としてできること
もしあなたが、スポーツや教育の指導者の立場にあるなら、以下のことが重要です。
- 「厳しさ」と「体罰」を区別する
多くの指導者が、「厳しい指導」と「体罰」を混同しています。
| 厳しい指導(適切) | 体罰(不適切) |
|---|---|
| 高い目標設定と、それを達成するための具体的なサポート | 恐怖や痛みによるコントロール |
| 失敗を学びの機会と捉え、建設的なフィードバックを与える | 失敗を罰し、否定的な評価をする |
| 選手の自主性と判断力を育てる | 盲目的な服従を求める |
| 選手との信頼関係に基づく | 権威と恐怖に基づく |
- 自分の感情パターンを観察する
選手が失敗した時、あなたの中にどのような感情が湧いてくるか、観察してみてください。
- 怒り
- 失望
- 不安(「このままでは勝てない」という恐れ)
- 焦り
これらの感情自体は自然なものです。しかし、それを選手にぶつける前に、一呼吸置くことが大切です。
- ポジティブコーチングを学ぶ
第2部で述べた通り、最新の研究ではポジティブな指導の方が、長期的なパフォーマンスが高いことが示されています。
- ポジティブコーチングの原則:
- 選手の強みに焦点を当てる
- 改善点を伝える時は、具体的で建設的なフィードバックを与える
- 選手の努力とプロセスを認める(結果だけでなく)
- 選手が自分で考え、判断する機会を作る
- 同僚や先輩指導者との対話
もし周囲に体罰を行っている指導者がいる場合、勇気を持って対話することも重要です。
ただし、直接的な批判は防衛反応を引き起こします。以下のようなアプローチが効果的です。
- 「最近、ポジティブコーチングの研究を読んだんですが、興味深かったです」と情報を共有する
- 「自分も昔は厳しく指導していたけど、最近は方法を変えてみて、選手の反応が良くなった」と経験を話す
- 組織として、体罰防止の研修やガイドラインを導入することを提案する


私自身の「逃げる」という反応との付き合い方
少しだけ、私自身の話をさせてください。
ただし、この体験談は長くなっているので、お時間のあるときに下の部分をタップしてお読みください。
私は子どもの頃、厳しい指導がつらくて部活動をやめた経験があります。
少年野球でもエラーをしたときに技術的な指導があるのではなく、「大きな声で怒鳴られる」こともありました。


何で大人は怒ってばかりなんだろう…集団でやる運動って楽しくないな…
このように感じるようになり、その後はあくまで自分のペースで運動するようになりました。
高校も、入学してすぐに「この環境は自分には合わない」と感じ、程なくして電車に乗れなくなるほど心身が病んで、約1ヶ月ほどで退学しました(後に別の高校に転学し、卒業しています)。
10代の当時、高校を辞めたことで「逃げてしまった」「親に迷惑をかけてしまった」と自分を責める気持ちが強くあり、本当の意味で高校を辞めた自分を認められるようになるまでには、その後数年間を要しました。
今振り返ると、海の生き物が陸上では生きられないように、合わない環境から離れること自体は、自分を守るための大切な選択でもあったと感じています。
このような経験があるからなのかは分かりませんが、以下のような相談を受けることがあります。


今いる場所(学校や職場)がどうしても合わなくてつらいんです…
結論をいえば、現在いる場所から離れるのは(それがたとえ他者から見て「逃げる」という表現であっても)、全然ありだと私自身の経験から感じていますし、そのように伝えることが多いです。
身を置いている場所から離れる(逃げる)ことも、非常に大きな勇気とエネルギーが必要です。その決断と行動ができるだけでも素晴らしいと私は考えています。
その一方で、私自身の過去の選択を振り返れば、いつも「離れる」だけが最善だったわけではありません。
本当は「自分の可能性を広げるために挑戦した方が良かった場面」でも、傷つくのが怖くて、チャレンジする前に引き返してしまったこともあります。
今思えば、「自分を守るための戦略的撤退」と「本当はやってみたかったけれど怖くて逃げた撤退」が、混ざっていたのだと思います。
この私自身の「逃げる」という習慣(悪習)は幼少期からのさまざまな出来事とその経験によるものです(非常に細かいことばかりなので割愛します)。
このような自分にとっての悪習を私は「呪い」と呼んでいますが、私はこの「呪い」の解く方法として以下のようなステップを実践しています。
- ストレスを感じた時、「あ、今逃げたくなっているな」とまず気づく
- すぐに結論を出さず、「ここは本当に離れるべき環境か? それとも、自分の可能性を広げるチャレンジとして、あえて踏みとどまりたい場面か?」と問いかけてみる
- 「逃げる」「とどまる」「誰かに相談する」「やり方を変えてみる」など、複数の選択肢を一度頭の中に並べる
- そのうえで、自分なりに一番納得できる行動を選ぶ
そして大事なのは、「二度と逃げない自分になる」ことではないと感じています。
- 何も考えずに「自動的に逃げる」のか
- 一呼吸おいて「意識的に選ぶ」のか
この違いに気づけるようになることが、まず最初の一歩だと思います。
自分で自分がどのように感じているのか・考えているのかを意識し、自分の意志で行動を選択することで、ただの悪習(呪い)としての選択と行動ではなくなり、新しい習慣を上書きできるようになります。
私のようにトラウマや世代間伝達で身についたパターンは、決して一瞬では変わりませんし、そのパターンが消えてなくなるわけではありません。それでも


これは自分の本質ではなく、過去の経験から学習されたパターンだったんだ
このように気づくことができれば、少しずつでも自分で選び直す余地が生まれてきます。
この記事を読んでくださっている方の中にも、「つい逃げてしまう」「つい攻撃的になってしまう」といった、変えたいけれど変えられないパターンに悩んでいる方がいるかもしれません。
その時は、どうかご自身を責めすぎないでください。


これは自分の弱さではなく、これまで生き延びるために身につけてきた知恵なんだったんだ
と、一度受け止めてみていただけたらと思います。
そのうえで、「ここは離れてよい場面か」「ここは小さくチャレンジしてみたい場面か」を一緒に見極めていくことが、トラウマからの回復の一部になると感じています。
なお、私の場合はたまたま「自分でなんとか対処できたレベルの経験」だっただけなので、繰り返しになりますが、日常生活に支障が出る症状(フラッシュバック、自傷行為、自殺念慮、重度の解離症状など)がある場合は、すぐに心理専門家に相談したり、専門医療機関を受診してください。
よくあるご質問
ここからはよくある質問に対する回答をご紹介します。これまでの復習代わりにもお読みください。


- 扁桃体と脳の変化:トラウマの神経科学的基盤
Belleau EL, Ehret LE, Hanson JL, Brasel KJ, Larson CL, deRoon-Cassini TA. Amygdala functional connectivity in the acute aftermath of trauma prospectively predicts severity of posttraumatic stress symptoms. Neurobiol Stress. 2020;12:100217.https://doi.org/10.1016/j.ynstr.2020.100217 - 神経可塑性とトラウマからの回復
Kolb B, Muhammad A, Gibb R. Harnessing the power of neuroplasticity for intervention. Front Hum Neurosci. 2014;8:377.https://doi.org/10.3389/fnhum.2014.00377 - 日本における体罰の世代間伝達
Umeda M, Kawakami N, Kessler RC, Miller E; World Mental Health Japan Survey Group 2002–2006. Childhood adversities and adult use of potentially injurious physical discipline in Japan. J Fam Violence. 2015;30(4):515-527.https://doi.org/10.1007/s10896-015-9692-z - ヨガによるPTSD治療の有効性
van der Kolk BA, Stone L, West J, et al. Yoga as an adjunctive treatment for posttraumatic stress disorder: a randomized controlled trial. J Clin Psychiatry. 2014;75(6):559-565.https://doi.org/10.4088/JCP.13m08561 - PTSDにおける脳領域の役割
Bremner JD. Neuroimaging in posttraumatic stress disorder and other stress-related disorders. Neuroimaging Clin N Am. 2007;17(4):523-538.https://doi.org/10.1016/j.nic.2007.07.003
関連記事
本記事では、トラウマからの回復のための具体的なアプローチについて解説してきました。
本記事は3部作となっておりますので、シリーズの他の記事も併せてお読みいただけるとより理解が深まります。
まとめ:回復への道は自分の身体とのつながりから始まる
ここまで、トラウマからの回復のための様々なアプローチについて解説してきました。最後に、重要なポイントをまとめます。
- 最も重要なメッセージ
もしあなたが、過去のトラウマに苦しんでいるなら、どうか覚えておいてください。
回復は可能です。
脳と神経系は、適切なアプローチによって変化することができます。そして、あなたの世代で、トラウマのサイクルを止めることができます。
「自分も受けたから」という理由で、次世代に同じ苦しみを伝えるのではなく、「自分が受けたトラウマの影響に気づき、意識的に別の選択をする」 ことができるのです。
それは決して「弱さ」ではありません。トラウマに気づき、それを断つという選択は、最も勇気ある行動だと私は思います。
一人で抱え込まず、必要であれば専門家の力を借りてください。整体やボディワークも、あなたの回復の旅をサポートする一つの選択肢です。
神奈川県伊勢原市の整体院すいっちでは、トラウマインフォームドな視点を大切にしながら、皆様の「身体と心」のトータルサポートを心がけています。
身体の不調だけでなく、「なんとなく調子が悪い」「原因不明の症状がある」といったお悩みも、お気軽にご相談ください。
あなたの回復の旅を、心から応援しています。
ぜひ、以下の画像をタップして当院のホームページもご覧になってみてください。


重要な免責事項:本記事は一般的な情報提供を目的としており、医学的診断や心理療法の代替となるものではありません。トラウマやPTSDに関する具体的な判断や治療については、必ず心理専門家(精神科医、心療内科医、公認心理師、臨床心理士など)にご相談ください。
本記事の内容により、ご自身の判断で専門家の指示に従わないことは、心身の健康上の重大な問題を引き起こす可能性があります。整体施術は心理療法ではなく、身体のメンテナンスを目的とした補完的なアプローチです。特に、フラッシュバック、自傷行為、自殺念慮、重度の解離症状などがある場合は、すぐに専門医療機関を受診してください。
















私が無意識のうちにトラウマを抱えているのは分かったけど、実際に何をしたらいいんでしょうか…。