整体に科学的エビデンスが少ない理由とは?研究の「構造的な困難」を解説

PNFストレッチを行うセラピストと患者

整体なんて、そんな何をされるかわかったもんじゃないところに行ったらいかん!

このように通院している病院で言われたお客様がいたとかいなかったとか…。正直、私も理学療法士として病院勤務している時はそのように考えていたこともありました。

ところで、2週間ほど前のブログ「テレビで聞く『エビデンス』とは何か?医療情報との上手な付き合い方」では、エビデンスの基本的な考え方や階層構造について詳しくお伝えしました。このブログを読んだお客様から次のようなご質問をいただきました。

整体にエビデンスレベルの高い研究が少ないのはなぜなんですか?

今回はこのご疑問にお答えするため、なぜ整体や手技療法の分野では高品質な科学的エビデンス(特にランダム化比較試験やシステマティックレビュー)が構築しにくいのか、その「構造的な理由」について私なりに解説していきます。

先に結論を申し上げますと、「エビデンスがない整体は効果なし」ではありません。「エビデンスが不足している=効果がない」ではなく、「研究自体が技術的・倫理的に非常に困難」という現実があるのです。そしてこの違いを理解することで、西洋医学と整体の適切な使い分けや、整体との向き合い方が変わってくると思います。前置きが長くなりましたが、ご興味があれば読み進めていただければ幸いです。

復習:「エビデンス」と「エビデンスレベル」

まずはサラッと「エビデンス」と「エビデンスレベル」について復習していきましょう。

「エビデンス」とは?

「エビデンス(evidence)」とは、医学や健康の分野で“その方法や治療法が本当に効果がある”ことを、科学的な研究を通じて裏付ける根拠証拠を意味します。テレビやネットで「この治療法にはエビデンスがあります」と紹介される場合、それは「科学的に効果が検証されている」という意味です。

エビデンス(根拠)と書かれた黒板
この数年で市民権を得た言葉の1つであろうエビデンスは根拠・症候という意味です。

「エビデンスレベル」とは?

医学の世界では、エビデンスの信頼度(質)にも「ピラミッド型の階層構造」があります。
「エビデンスレベル」や「エビデンスの階層」と呼ばれ、下イラストのように上に行くほどより厳密で信頼性の高い検証が行われています。

エビデンスレベル(エビデンスの階層)を示したピラミッド型の構図
上に行くほど質の高いエビデンスになります。
エビデンスレベル・名称概要
レベル1:システマティックビュー・メタ解析複数の高品質な研究を統合し、全体的な傾向を導き出す
レベル2:ランダム化比較試験(RCT)介入群と対照群を無作為に分けて客観的に効果を比較
レベル3:コホート研究・症例対照研究長期間追跡、条件の異なる集団比較
レベル4:症例報告・症例集積研究少数例で新しい手法や副作用を検討
レベル5:専門家の意見・権威者の発言現場の経験に基づくが科学的根拠は弱い
レベル6:in vitro実験・動物実験ヒト以外を対象として行う、初期段階の科学的検証

そして「エビデンスレベルが高い」とは、厳密な方法で偏りの少ないデータに基づいていることを意味します。一方で、どんなエビデンスも“絶対”ではないことに注意が必要です。

整体の研究が困難な「6つの構造的理由」

ではここから、整体や手技療法において高品質なエビデンスの構築が困難な理由についてまとめていきます。

1. プラセボ(偽治療)対照群の設定が事実上不可能

前回の記事でお伝えした通り、質の高いエビデンスを得るためには、ランダム化比較試験(RCT)が重要な役割を果たします。医薬品の場合、「本物の薬」と見た目・味・匂いが全く同じだが有効成分を含まない「偽薬(プラセボ)」を作ることができます。しかし、整体や手技療法では「本物そっくりだが治療効果のない偽整体」を作ることが極めて困難です。

プラセボ(偽薬)のイラスト
偽薬のような整体を作るのが非常に難しいのです。

2. 治療手技の標準化と再現性の問題

薬物治療では「1日3回、各200mg服用」のように治療内容を厳密に規定できますが、整体では以下の要因で標準化が困難です。

  • 施術者の技術レベル差:同じ手技名でも、施術者の熟練度や経験年数によって圧力、角度、時間が大きく変わる
  • 患者の体型・症状の個別性:身長、体重、筋肉量、症状の程度によって最適なアプローチが異なる  
  • 施術環境の影響:治療室の環境、患者との関係性などの「文脈的要因」も効果に影響

実際、外科領域の臨床研究でも同様の問題が指摘されており、「複雑な介入を記述し、標準化し、すべての患者に一貫して適用することが難しく、介入のわずかな差異が処置の効果を推測する際に重大な影響を及ぼす」とされています。

二人の体型の違う女性が並んでいる写真
体型の異なる方に対してのアプローチの標準化が難しいことは何となくお分かりになると思います。

3. 評価指標の主観性と測定の困難さ

整体の主要な効果指標は以下のような主観的要素が強いものが中心となります。

  • 痛みの程度:視覚的アナログ尺度(VAS)による患者の主観評価に依る
  • 可動域の改善:測定者によるばらつきが生じやすい
  • 生活の質(QOL):患者の価値観や生活環境に大きく左右される
  • 満足度:施術者との関係性や期待値の影響を受けやすい

これらは前回の記事でご紹介した骨折のレントゲン写真のような「誰が見ても明確な客観的指標」とは異なり、測定の信頼性や妥当性を確保することが困難です。

角度計で肘の関節可動域を計測している様子
角度計を用いた評価でも測定者によって結構なばらつきが生じます。

4. 研究資金と学術支援の構造的不足

医薬品開発では、製薬企業が1つの新薬に数百億円の研究開発費を投じることがあります。一方、整体や手技療法の分野では

  • 製薬企業のような巨大スポンサーが存在しない
  • 公的研究助成金の配分が医薬品・医療機器研究に偏重
  • 学術誌での手技療法論文の採択率が相対的に低い
  • 大学の研究室レベルでの継続的研究体制が不十分

これにより、大規模なランダム化比較試験(RCT)や長期間のフォローアップ研究を実施するための資源が不足している現状があります。

資金が増える様子
そもそも研究費用は命に関わるような優先順位の高いものに回すのが当然です。

5. 倫理的制約と対照群設定の困難さ

質の高い研究には対照群(比較群)の設定が不可欠ですが、整体の場合だと

  • 「治療を全く受けない群」を設定することの倫理的問題:痛みで苦しむ患者に何もしないことへの倫理的疑問
  • 「標準的な整体」の定義困難:流派や手法が多様で、何を標準とするか合意形成が困難  
  • 待機リスト対照の限界:長期間待機させることの現実的・倫理的問題
待合室で待たされて退屈そうにしている女性
「私の番はまだ?」と何ヶ月、何年と苦しい中待つ方がいませんし、作れません。

6. 追跡調査(フォローアップ)の実務的困難さ

長期的な効果を検証するためには、施術後数ヶ月〜数年の追跡調査が必要ですが

  • 患者の脱落(ドロップアウト)率が高い:私的なアプローチのため、継続的な協力を得にくい
  • 生活環境の変化による交絡:転居、職場環境の変化、併用療法の影響を統制困難
  • 費用と時間の制約:長期研究に必要な研究費と人員確保の困難
フォローアップと書かれた透明なボード
フォローアップや追跡の問題は中長期的な研究につきものです。

西洋医学と整体などの代替医療の適切な使い分け

前回の記事では「エビデンスは判断の羅針盤として活用し、個別性も考慮することが重要」とお伝えしました。この考え方は、西洋医学と整体の使い分けを考える上でも非常に重要です。

西洋医学が得意とする分野

高い客観性と緊急性が求められる状況では西洋医学が力を発揮しますし、何よりもそれが本来の西洋医学の在り方と役割です。例えば

  • 骨折、脱臼などの外傷
  • 感染症、発熱
  • 急性の激しい痛み(特に姿勢によって軽減しない痛み)
  • 内臓疾患の疑い
  • 神経症状(しびれ、麻痺など)

前回の記事でご紹介したように、これらの分野では客観的な診断が可能で、かつ Red Flag Sign(危険信号)が存在する場合があります。命に関わる可能性がある症状では、まず医療機関での適切な検査・診断・治療が最優先となります。

救急でストレッチャーに乗せられた患者が医師に囲まれながら運ばれる様子
私も何度か「すぐに病院へ!」と施術せずに受診を促したことがあります。

整体・手技療法が活用できる分野

一方で、整体や手技療法は慢性的で機能的な問題、生活の質の向上を目指す状況で力を発揮します。例えば、

  • 慢性的な肩こり、腰痛
  • 姿勢の改善
  • 疲労回復、リラクゼーション
  • 可動域の改善
  • 日常生活動作の向上

これらの分野では、前回記事でお伝えしたエビデンスの階層で言えば「個人の体験」や「臨床家の経験」も重要な価値を持ちます。

肩の施術を行う整体師と患者
整体の役割もお分かりになっていただけてきたと思います。

理学療法士免許を持つ整体師として

私自身、理学療法士免許を持つ整体師として感じるのは、この複雑なエビデンス状況と西洋医学との境界線を適切に理解し、お客様にお伝えできることの重要性です。

私は理学療法士の養成課程や勤務経験から一定程度の医学的な基礎知識を持ち合わせています。

  • 理学療法士の養成課程で学んだ解剖学、生理学、病理学の知識により、医学的リスクを適切に評価
  • 症状が医療機関での対応が必要かどうかの判断(例:単なる筋肉の緊張か、神経系の問題か)
  • 患者の個別状況(併存疾患、服薬状況等)への医学的配慮

これらを統合的に判断し、「エビデンスレベルは限られていても、この方にとって最善と考えられる選択肢」を提案できることが、医学的背景を持つ整体師の強みかと思います。これは私が何でもできるという意味ではなく、「これは医学的な管理やアプローチが必要だ」と判断した場合に、すぐにそれを提案できるということです。

理学療法士免許
久々に自分の理学療法士免許を見ました。

なお、余談ですが最近では部分的にですが整体などの手技療法や代替医療の分野でもエビデンスが構築されつつあるという報告もあります。整体という分野の役割がよく明確になり、利用者側も安心できるようになると良いなぁと思います。

適切な情報の見分け方:前回記事の応用

ここまでの内容と前回記事でご紹介した「健康情報リテラシーの向上」を、整体選びにも応用してみましょう。

整体院選びで注意すべき表現

過大な効果を謳う表現は要注意です。例えば

  • 「どんな症状でも必ず治ります」
  • 「1回で完全に改善します」
  • 「医療機関では治らない症状が治ります」

最近は「バズれば何でも良い」的なSNSでの投稿も散見される気がするので、私も気をつけたいところです。

一方、適切で誠実な表現の例としては

  • 「症状の軽減を目指します」
  • 「多くの方が改善感を体験されています」
  • 「あなたの状態に合わせたアプローチを行います」

日本には医師法、薬機法、景品表示法などがありますので使える言葉や表現が限られており、私も四苦八苦しているのが現状なのですが、とにかく過大な表現のものにはご注意ください。

信頼できる整体師の見分け方

前回記事の「複数の専門家による見解の一致を確認」という視点を応用すると

  • 医療機関との連携を大切にしている
  • 施術の限界を正直に説明している
  • 必要時は医療機関への受診を勧める
  • 過去の臨床経験に基づいた現実的な説明をしている

この辺りのことについては実際に整体に行くまでは分からないと思いますが、頭の片隅に置いておくと良いと思います。

よくあるご質問

ここからはよくある質問に対する回答をご紹介します。これまでの復習代わりにもお読みください。

Q&Aの画像

前回の記事でもお伝えしたように、エビデンスベースドプラクティスでは「利用可能な最善のエビデンス、患者様の価値観、臨床家の経験、利用可能な資源」の4要素を統合して判断します。整体の研究が困難であることは、効果の否定を意味するものではありません。重要なのは、西洋医学と整体の適切な使い分けだと私は考えています。

医師の視点からすると薬物療法のような厳密なRCTがない治療法に対して慎重になるのは理解できます。しかし、今回解説した手技療法特有の研究上の制約を理解していただき、「研究が困難=効果なし」ではないことをご理解いただければと思います。重要なのは、医療と整体の適切な使い分けと連携だと私は考えています。

「個人の体験」もエビデンスの一つです。たとえプラセボ効果が一部もしくは多分に含まれていたとしても、あなたが実感した改善は価値のあるものです。重要なのは、その体験を客観視し、継続的に評価することだと思います

  1. Muñoz Laguna J, Nyantakyi E, Bhattacharyya U, et al. Is blinding in studies of manual soft tissue mobilisation of the back possible? A feasibility randomised controlled trial with Swiss graduate students. Chiropr Man Therap. 2024;32:3. doi:10.1186/s12998-023-00524-x
  2. McDevitt AW, O’Halloran B. Cracking the code: unveiling the specific and shared mechanisms behind musculoskeletal interventions. Arch Physiother. 2023;13:14. doi:10.1186/s40945-023-00168-3
  3. Zhu B, Ba H, Kong L, et al. The effects of manual therapy in pain and safety of patients with knee osteoarthritis: a systematic review and meta-analysis. Syst Rev. 2024;13:91. doi:10.1186/s13643-024-02467-7
  4. 外科領域の探索的研究について. 脊椎外科. 2017;31(1):35-42. https://www.jstage.jst.go.jp/article/spinalsurg/31/1/31_35/_article/-char/ja/
  5. 康永秀生, 他. 超入門!スラスラわかる リアルワールドデータで臨床研究(第1版). 金芳堂; 2019.(書籍情報:出版社ページ
  6. Johnson AH, Cook BG. Preregistration in single-case design research. Exceptional Children. 2019;86(1):95-112.
  7. Krasny-Pacini A, Evans J. Single-case experimental designs to assess intervention effectiveness in rehabilitation: A practical guide. Annals of Physical and Rehabilitation Medicine. 2018;61(3):164-179.
  8. 久保田雅史. シングルケースデザイン. 理学療法ジャーナル. 2023;57(2):211-217. doi:10.11477/mf.1551202950
  9. 厚生労働省. 手技による医業類似行為の危害について. 2017. Available at: https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002lamn-att/2r9852000002latt.pdf
  10. 独立行政法人医薬品医療機器総合機構. プラセボ対照試験の実施が困難な領域・分野の実態.Available at: https://www.pmda.go.jp/files/000198162.pdf

関連記事

エビデンスに関する基本的な記事や西洋医学の力が必要なケースの例として、命に関わる腰痛の記事も書いております。また、西洋医学の種類や役割についての記事も書いてあります。参考までに以下の関連記事をお読みください。

エビデンスと書かれたレポート

まとめ:西洋医学と整体の調和を目指して

前回の記事から続けて、今回は整体や手技療法において高品質なエビデンスが構築困難な理由について、構造的・技術的・制度的側面から詳しく解説しました。前回記事と合わせて理解していただきたい重要なポイントとして

  • エビデンス不足は手技療法の研究上の制約によるものであり、効果の否定を意味しない
  • 西洋医学と整体にはそれぞれ得意分野があり、適切な使い分けが重要
  • 理学療法士免許を持つ整体師として、医学的知識基盤とエビデンス理解力を活用した質の高いケアを提供可能と考えます
  • 前回の記事でお伝えした「情報リテラシー」の視点で、正直で透明性のある情報提供が重要

私個人は、前回の記事でお伝えしたエビデンスの適切な理解と、今回解説した西洋医学との使い分けを大切にしながら、お客様一人ひとりのニーズに応じた最適なケアを提供しています。

「この症状は医療機関での対応が必要でしょうか?」「整体で改善が期待できる状態でしょうか?」といったご相談から、実際の施術まで、医学的根拠の理解と現場経験の両方に基づいたアプローチで、皆様の健康維持・向上にお役立ていただければと思います。

神奈川県伊勢原市の整体院すいっちでは、医学的根拠と臨床経験の両方に基づいたアドバイスとともに、お客様一人ひとりに合った施術やセルフケアを提供しています。お体の不調でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。ぜひ、以下の画像をタップして当院のホームページもご覧になってみてください。

整体院すいっちのHPのアクセスできる画像
画像をタップすると当院のHPにアクセスできます。
記事のシェアは以下のボタンから