運動を続けてもメンタルが強くならない|その理由を科学的根拠から解明

運動をして水分補給しつつ汗を拭く男性
疑問を浮かべる男性のイラスト

「運動をするとメンタルが強くなる」って言いますけど、本当ですか?

整体院を運営する傍ら、私自身、5年以上運動を習慣にしてきました。具体的には40分間のサーキットトレーニングに加え、毎週30〜45kmほどのランニングを継続しています。

確かに体は変わりました。かつてできなかったトレーニングがこなせるようになり、走れる距離も伸び、ランニングのベストタイムも更新しました。

2025年のランニングのトータルの記録
私が2025年に走った回数と距離、達成時間です。

しかし、ある問題に気づきました。

肉体的には着実に強くなっているのに、精神的には何も変わっていないということです。

仕事でプレッシャーを感じる場面では、相変わらず逃げたくなります。苦手な課題に取り組もうとするたびに、不安が襲ってきます。

5年も運動しているのに…なぜ…?

という疑問が、ずっと頭にあり、ある仮説を立てました。

もしかして…「運動でメンタルも鍛えられる」という一般的な主張は、すべての人に当てはまるわけではないのではないか?

この仮説をもとに、運動とメンタルの関係性について科学的根拠を調べ始めました。

その過程で見えてきたのは、運動と心理的強さは異なる領域に属しており、自動的には転移しないという医学的事実です。本記事では、その科学的メカニズムをできるだけわかりやすく説明します。

なお、現代の脳科学・医学的観点で確認されている情報をベースにしていますが、研究は常に更新されます。あくまで参考程度にお読みいただき、ご自身の心身の状態について不安な点がある場合は、必ず医療機関でご相談ください。

運動の実際の効果——科学的根拠

まず強調したいのは、運動の心理的効果は確実に存在するということで、これは無数の医学研究で証明されています。

準備運動をする高齢者たち

気分と情動の改善

運動習慣のある人は、ない人に比べて以下の傾向が認められています。

  • 抑うつ症状の軽減:中程度から大きな効果が報告されている
  • 不安症状の改善:特に日常的なストレスに対する心理的余裕が増す傾向
  • 一般的なメンタルヘルスの向上:疲労感の低減、活力の増加

これらの効果は継続的な運動経験があれば、本人も実感できるレベルです。

認知機能の向上

運動は脳にも影響を与えます。

  • 記憶力・集中力の改善
  • 思考速度の向上
  • 判断力の向上

神経生物学的メカニズム

なぜこのようなことが起きるのか、その理由は脳の活動レベルで説明できます。

  • 脳由来神経栄養因子(BDNF)の増加:脳細胞の成長と連結性を促進
  • 神経伝達物質の調整:ドーパミン、セロトニン、ノルエピネフリンなどの増加が気分を改善
  • HPA軸(視床下部・下垂体・副腎軸)の調整:ストレスホルモンのバランスが改善

つまり、私が5年間運動で体を変えられたのは、脳の生物学的効果も含まれているのです。

「メンタルの強さ」とは何か——身体的レジリエンスとの違い

ここが本記事の核になる部分です。「メンタルが強い」という言葉は曖昧ですが、心理学では複数の意味があります。

メンタルヘルス
心理学的な「メンタル」とその「強さ」をまず整理しましょう。

運動がもたらす「メンタルヘルス」

先ほど触れた気分の改善認知機能の向上は、確かに「メンタルへの効果」です。このレベルでなら、運動は確実に効果があります。

運動がもたらさない「精神的レジリエンス」

しかし、一般的に「メンタルが強い」と言うときに想定される能力があります。

  • プレッシャー場面での対処能力
  • 苦手なタスクへの取り組み開始能力
  • 失敗や拒絶への耐性
  • 不安を感じながらも行動する能力
  • 逃避したい衝動の制御

残念ながら、こういった精神的レジリエンス(困難、ストレス、危機的な状況に直面した際に、しなやかに適応し、回復する力)は、動だけで十分に鍛えられるわけではないと考えられます。

二つの領域の違い

わかりやすく整理すると以下の表のようになります。

項目身体的レジリエンス心理社会的レジリエンス
鍛える対象筋肉、心肺機能、持久力思考パターン、感情対処、行動選択
不快感の質身体的疲労、筋肉痛心理的不安、評価恐怖、否定感
対象領域物理的世界社会心理的世界
運動での成長可能性⭕ 高い❌ ほぼなし
問題解決への転用可能性△ 限定的△ 限定的

領域固有性——なぜ運動の成果は転移しないのか

心理学と神経科学には、「領域固有性(domain specificity)」という重要な原則があります。

領域固有性とは

簡潔に言うと「あるスキルや適応が、その習得された領域(ドメイン)の中では発揮されるが、異なる領域には自動的には転移しない」という原則です。

これは日常的にも確認でき、具体的例を挙げると分かりやすいと思います。

  • 数学が得意な人が、英語が得意とは限らない
  • スポーツで精神的に強い選手が、人間関係でも強いとは限らない
  • 音楽を習得した人が、ダンスの習得が得意とは限らない

運動と精神的強さの場合

運動による身体的レジリエンスは、以下の能力から構成されています。

  • 物理的負荷への生理学的適応
  • 運動領域での目標達成の経験
  • 運動パフォーマンスに対する自信

一方、「プレッシャー場面での対処」に必要な能力は

  • 心理的不安への対処スキル
  • 問題解決の思考パターン
  • 失敗への認知的対処

これらは脳の異なる領域が担当しており、「運動で鍛えた領域」と「対人ストレスに対応する領域」は重複が少ないのです。

認知トレーニング研究からの教訓

これは運動に限った話ではありません。神経科学の研究では、以下のことが確認されています。

  • 特定の課題で訓練すると、その課題の成績は向上する
  • しかし、類似した課題への転移さえ、一貫して報告されない
  • 遠い領域への転移(far transfer)は、ほぼ証明されていない

つまり、「何かで得た力は、全く関係ない領域には転移しない」というのが、現在の脳神経科学における標準的な理解なのです。

落ち込んでいる女性
領域固有性の観点から見ると、『運動を一生懸命続けてもメンタルが思ったほど強くならない』という感覚は、むしろ自然なことだと考えられます。

「自分のペース」での運動の特性——メリットと限界

ここで、私の運動習慣について整理する必要があります。

私の運動の特徴

  • 自分で選んだペース:強制ではない
  • 学童期から「自分のペース」での運動が好き、しかし、部活のような強制的なものは苦手
  • 快適な範囲内での実施:過度なストレスを感じながらの運動ではない

自律的動機づけのメリット

運動心理学の研究によると、自分で選んだ(自律的な)運動は、メンタルヘルスに対して強い効果を示すことが確認されています。

つまり、私が気分改善や認知機能の向上を実感できるのは、この「自分のペース」という特性があるからです。

しかし、そこに落とし穴がある

同じ研究では、自分のペースでの快適な運動は、「ストレス免疫効果」をもたらしにくい という結果も報告されています。

ストレス免疫とは

ストレス免疫とは、コントロール可能な軽度〜中程度のストレスに繰り返し曝露されることでより強いストレスへの耐性が構築される現象をいい、心理学における重要な概念です。

動物実験では、「コントロール可能なストレスに曝露されたラット」は、その後の様々なストレス状況(社会的敗北、恐怖、新奇環境)に対してもレジリエンスを示すことが確認されています。

快適な運動には、ストレス免疫効果がない

  • 強制的なトレーニングや競争の場では:心理的ストレスが伴い、ストレス免疫が形成される可能性がある
  • 快適なペースでの自発的運動では:身体的負荷はあるが、心理的なストレス(評価への不安、失敗への恐怖)が最小限

つまり、安全で心地よい運動は、身体を鍛えるが、心理的なストレス耐性を高めない可能性があるのです。

私が5年以上運動をしても「メンタルが強くなってない」と感じるのは、自分のペース(安全で心地よい範囲)で運動しているから、と予想できます。

クロスストレッサー適応仮説の現実

しかしそれでも、「身体的ストレス(運動)への適応が、心理的ストレスへの適応にも転移するのではないか」という仮説があります。これをクロスストレッサー適応仮説と呼びます。

理論的には魅力的

この仮説は直感的に説得力があります。実際、スポーツ選手は精神的にタフに見えることが多いため、「運動が心理的強さを作る」という一般的な認識が生まれました。

しかし、実験的証拠は限定的

複数のランダム化比較試験(医学的根拠の高い研究デザイン)では、予想外の結果が報告されています。

8週間の高強度インターバルトレーニングをしたグループは、心理的ストレステスト(例えば、公開でスピーチをする)への生理反応(心拍数、血圧、コルチゾール)を改善しなかった。

別の研究でも「6ヶ月間の有酸素運動プログラムをしたグループと、運動しなかったグループの間に、急性心理社会的ストレス反応の有意な差がなかったという報告があります。

なぜ転移が起こらないのか

これまでの説明を統合すると、理由は明確です。

  1. 異なる神経回路:身体的ストレスと心理社会的ストレスは、脳の異なる領域を活性化する
  2. 学習の文脈依存性:学習は、それが起こった文脈に強く拘束される
  3. 領域固有性の原則:一つの領域での適応は、根本的に異なる領域には転移しない
落ち込む野球選手
長年競技を続けているプロ野球選手でさえ、先発の前日には眠れない選手もいると聞きます。

運動は無意味ではない——正しく理解する

ここまでの説明で、「では運動は意味がないのか?」という誤解が生じる可能性があります。

この点については、断固として、その誤解を否定します。

運動が確実にもたらす価値

  1. 気分改善と精神疾患予防
    • うつ病や不安症などについて、運動が予防・軽減に役立つ可能性があると報告した研究が多数あります
    • これだけでも、運動には大きな価値があると考えられます
  2. 認知機能の維持・向上
    • 加齢に伴う認知能力の低下を遅延させます
    • 判断力や集中力を保つことは、人生の質に大きく関わります
  3. 身体健康
    • 心血管疾患、糖尿病などの慢性疾患予防
    • 転倒防止、骨密度維持(特に高齢者)
  4. 生活満足度
    • 目標達成の実感
    • 健康状態への充足感

整体師としての観点から

疑問を浮かべる女性のイラスト

精神的な健康のためにも、運動は必要ですか?

職業柄、このようなご質問をお客様からいただくことがあります。回答としては…

指さしをしているイラスト

もちろん、運動にはいろいろな効果がありますから、した方が良いです。ただし、運動だけで精神的な問題がすべて解決するわけではない、という認識を持つことが大切です

とお答えするようにしています。

これまで触れてきた通り、適切な運動習慣は、身体の土台を整え、気分を安定させ、認知機能を保ちます。その上で、心理的な課題には、別のアプローチが必要な場合があるということです。

海辺で準備体操をしている女性
ただ運動をするだけでは、求めている心理面の効果は得られないかもしれません。

よくあるご質問

ここからはよくある質問に対する回答をご紹介します。これまでの復習代わりにもお読みください。

Q&Aの画像

運動だけでは難しいというのが本記事の主旨です。別の記事で詳しく説明しますが、「瞑想」「認知行動療法的なアプローチ」「段階的なストレス曝露」などが、心理的レジリエンス構築に効果があるとされています。

可能性は0ではありません。ただし、以下の条件が揃う場合に限定されます。

  • 競争的環境(他者と比較されるプレッシャー)
  • 失敗の可能性がある課題への取り組み
  • 自分の快適ゾーンを超えた挑戦

つまり、「趣味として自分のペースで続ける運動」よりも、「課題解決的な、心理的不快感を伴う運動」(例:フルマラソンへの挑戦、競技スポーツ)の方が、副次的に心理的強さを高める可能性があります。

いいえ。むしろ、運動は続けるべきです。その上で、「精神的な課題には別のアプローチが必要」という認識を加えることが推奨されます。

整体や物理療法は、身体の状態を整え、痛みを軽減することで、心理的なストレス負荷を減らす効果があります。しかし、心理的レジリエンス本体の構築には、より直接的な心理的介入(瞑想、認知行動療法など)が効果的です。整体と心理的アプローチの組み合わせが、理想的だと考えられます。

  1. 運動は抑うつ・不安などメンタルヘルスの改善に役立つ
    Dishman RK, et al. Physical activity and mental health: evidence is growing. World Psychiatry. 2016;15(2):176–177.
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4911759/
  2. 運動は認知機能を改善し、加齢に伴う認知低下を遅らせる
    Erickson KI, et al. Exercise training increases size of hippocampus and improves memory. Proc Natl Acad Sci U S A. 2011;108(7):3017–3022.
    https://doi.org/10.1073/pnas.1015950108
  3. 運動はBDNFなどの神経生物学的メカニズムを通じて脳機能に影響する
    Bidzan-Bluma I, Lipowska M. Physical activity and cognitive functioning of children: A systematic review. Int J Environ Res Public Health. 2018;15(4):800.
    https://doi.org/10.3390/ijerph15040800
  4. 運動の「メンタル効果」はあるが、「精神的な強さ」(プレッシャーへの対処・レジリエンス)は別の概念であり、運動だけで十分に鍛えられるとは言えない
    Sala G, Gobet F. Cognitive training does not enhance general cognition. Psychol Sci. 2019;30(4):591–605.
    https://doi.org/10.1177/0956797619841359
  5. クロスストレッサー適応仮説(運動による身体ストレス適応が心理社会的ストレス反応に転移する)は、RCTでは支持が限定的
    Klaperski S, et al. The effects of exercise training on hypothalamic-pituitary-adrenal axis reactivity and autonomic response to acute stress—a randomized controlled study. Trials. 2020;21:442.
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7590691/

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本記事では私の体験を通し、運動とメンタルの関係性についてまとめてきました。

心理面へのアプローチの例としては瞑想があります。瞑想の基本的なやり方や科学的根拠を知りたい方は、「初心者向けマインドフルネス瞑想ガイド|科学的根拠と実践方法」もぜひご覧ください。

瞑想している高齢女性

まとめ:運動とメンタルの関係を正しく理解する

ここまで、運動と精神的強さの関係について解説してきました。最後に、重要ポイントをまとめます。

  • 運動は確実に効果があるが、その効果は主に「気分改善」「認知機能向上」に限定される。
  • 「精神的な強さ」(プレッシャーへの対処、課題解決能力)は、異なる心理プロセスであり、運動では自動的には発達しない。
  • これは「運動が無意味」ではなく、「領域固有性の原則」に基づいた、神経科学的に妥当な理解である。
  • 自分のペースでの快適な運動は、メンタルヘルスには良いが、ストレス免疫効果は期待できない。
  • 運動は続けるべきだが、心理的課題には別のアプローチが必要な場合がある。

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