「人生100年時代」という言葉を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。日本政府の政策や企業の研修でも頻繁に使われるこのキーワードですが、果たして本当に私たちの「人生100年時代」は到来するのでしょうか?医学的根拠と最新の研究データを基に、この概念の真実に迫ります。
高齢者の方々と接した経験から、「健康で100年生きる」ことと「生かされた100年」の間には大きな違いがあることを実感しています。今回は、巷で語られる「人生100年時代」の現実と、私たちが目指すべき健康な長寿について詳しく解説いたします。なお、今回の記事は私の主観や思想が反映されているので、あくまで参考程度にお読みいただければと思います。
もくじ
「人生100年時代」の真の提唱者は経済学者だった
多くの方が誤解されているのですが、「人生100年時代」という概念を最初に体系的に提唱したのは医学者でも老年学の専門家でもありません。この概念は、ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授とアンドリュー・スコット教授という経済学者によって2016年の著書『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)〜100年時代の人生戦略〜』で初めて体系化されました。もちろん、寿命の延伸については医学的根拠をもとに書かれていました。

しかし、この概念はあくまで主に経済的視点で語られていました。実際、日本政府が2017年9月に「人生100年時代構想会議」を設置し、この概念を政策に取り入れた際の主な狙いは以下の通りだと私は解釈しています。
- 労働力確保:少子高齢化による労働力不足の解決
- 社会保障制度の持続可能性:年金支給開始年齢の引き上げへの布石
- 経済成長戦略:高齢者の経済活動参加促進
要は、実質的に「みんなもっと働けますよね?」というメッセージを込めて推進してきました。
日本人の平均寿命と健康寿命の現実
このブログはさまざまな世代の方が読まれていると思いますが、まずは日本の現状を把握しておきましょう。
最新の統計データ
厚生労働省による令和5年簡易生命表によると、日本人の平均寿命は以下の通りです。
- 男性:81.09年
- 女性:87.14年
一方、健康寿命(自立して生活できる期間)については令和4年のデータですが
- 男性:72.57年
- 女性:75.45年
これは平均寿命との間に約8〜11年の差があることを意味します。つまり、人生の最後の10年程度は何らかの支援や介護が必要な状態で過ごすことになるのです。

興味深いことに、健康寿命は平均寿命よりも速いペースで延伸していることが確認されています。しかし、それでも両者の差は依然として大きく、完全に解消される見込みは立っていないようです。
「生かされた100年」の実態:延命治療の現実
理学療法士として目の当たりにしてきた現実をお話しします。例えば、経口摂取が困難になった高齢者の方に胃瘻(いろう)を造設した場合、確かに一時的に顔色が良くなり、延命効果が見られることがあります。しかし、その現実を知っておくことも大切だと思います。

人工栄養法の生存データ
日本で実施された大規模研究(JAPOAN研究)では、高齢者546名を対象とした人工栄養法の効果が調査されました。
180日後の死亡率:
- 中心静脈栄養(PN):52%
- 経鼻胃管栄養:32%
- 胃瘻栄養(PEG):22%
360日後の死亡率:
- 中心静脈栄養(PN):63%
- 経鼻胃管栄養:41%
- 胃瘻栄養(PEG):33%
以上のように確実に延命効果はありますが、これがご本人の望む形で「生きている」と言えるかは別問題だと思います。
終末期医療の課題
日本の終末期医療の特徴として、法的制約により延命治療を中止することが困難な状況があります。これにより、ご本人やご家族の意思に関わらず、「生かされる」状態が続くケースがあると考えられます。
生物学的限界:人間の最大寿命は120年程度
寿命を語る上で、まずは前提として「人間の最大寿命はどの程度か?」を知っておきましょう。
科学的根拠による寿命限界
Nature誌に掲載された最新研究では、人間の生物学的な最大寿命は120〜125年程度であることが示されています。この研究では、8カ国(オーストラリア、フランス、イタリア、日本、韓国、スペイン、スウェーデン、スイス)の長寿データを1990年から2019年まで分析しました。
主な知見は以下の通りです。
- 100歳まで生存する確率は女性で最大15%、男性で5%
- 1990年以降、平均寿命の延び率は鈍化傾向
- 生物学的老化プロセスを大幅に遅らせない限り、急激な寿命延長は困難
私が注目したのは、1990年以降、先進国における平均寿命の改善が鈍化していることです。これは、医療技術の進歩による恩恵が限界に近づいていることを示唆しています。
経済政策としての「人生100年時代」
これまでは主に医学的な視点で「人生100年時代」についてお伝えしてきましたが、ここでは立ち戻って経済的な視点で「人生100年時代」を考えてみたいと思います。
労働力確保の言い訳に過ぎない現実
現在の日本では、労働力不足解決のため定年退職年齢を70歳まで引き上げる議論が活発化しています。「人生100年時代」の概念は、この政策を正当化する理論的根拠として利用されている側面があると私は考えています。
日本政府の推進する「人生100年時代」政策の背景として、主に社会保障制度に関わる経済的課題があります。
- 年金財政の逼迫
- 医療費の増大(生涯医療費約2,900万円)
- 介護保険制度の持続可能性
なお、医療費(障害医療費約2,900万円)についてはこちらの関連記事をご覧ください。
「選ばれた人だけの100年時代」という現実
お伝えしてきたように、現代の医学的知見では「人間の最大寿命は120〜125歳程度」であること、そして日本においては平均寿命・健康寿命ともに延伸はしているものの、経済政策として「人生100年時代」が推進されているという背景があります。
最新の研究では、社会経済的地位が健康寿命に大きく影響することが明らかになっています。つまり、「人生100年時代」は経済的に恵まれた層にとっての現実であり、すべての人に当てはまるわけではありません。
日本国内でも都道府県間で健康寿命に格差があり、これは医療アクセス、生活環境、経済状況などの複合的要因によるものだと考えられます。これらを踏まえ、「人生100年時代」に向けてどう備えていけば良いのでしょうか。
健康で長生きするための現実的アプローチ
長生きしたいかどうかは別として、せめて健康でいたい方はいらっしゃると思います。ここでは「いかに健康で居続けるか」をテーマにお伝えしていきます。
エビデンスに基づく健康寿命延伸法
研究により効果が証明されている方法をご紹介します。
1. 社会参加の重要性
山梨県で実施された研究では、配偶者のいない高齢男性でも、積極的な社会参加により健康寿命が延伸することが確認されています。
2. 身体活動の維持
大崎国民健康保険加入者コホート研究では、運動不足、肥満、喫煙のリスクがすべて重なると医療費が43.1%上昇することが示されています。
3. 栄養管理の重要性
高齢者の栄養状態は生存期間に直接影響し、適切な栄養管理により生涯医療費の10-20%削減が可能とされています。


整体師としての実践的アドバイス
上記のことに加え、私が現場で効果を実感している方法としては以下のものがあります。
- 正しい姿勢の維持:体幹筋力の維持が自立した生活の基盤
- 定期的なメンテナンス:予防的ケアによる機能低下の防止
- セルフケアの習慣化:毎日の簡単なストレッチや運動
- ストレス管理:慢性ストレスは筋緊張と健康寿命に悪影響
セルフケアや日常生活の見直しで参考になる関連記事をいくつか挙げておきますので、興味の惹かれるものがあればぜひお読みください。
- Aburto JM, Villavicencio F, Basellini U, et al. Dynamics of life expectancy and life span equality. Proc Natl Acad Sci U S A. 2020;117(10):5250-5259.
doi:10.1073/pnas.1915884117 - Yoshikawa T, Yamada M, Matsumoto Y, et al. Active social participation extends the healthy life expectancy of older men without spouses in Japan: The Yamanashi healthy active life expectancy cohort study. Medicine (Baltimore). 2024;103(49):e40755.
doi:10.1097/MD.0000000000040755 - Jay O, Brickley G, Ferguson E, et al. Implausibility of radical life extension in humans in the twenty-first century. Nature Aging. 2024;4:1424-1432.
doi:10.1038/s43587-024-00702-3 - The latest policies, practices, and hotspots in research in conjunction with the aging of Japan’s population. Biosci Trends. 2024;18(3):167-175.
doi:10.5582/bst.2024.01150 - Tsuji T, Miyaguchi M, Kanamori S, et al. Prospective cohort study comparing the effects of different artificial nutrition methods on long-term survival in the elderly: Japan Assessment Study on Procedures and Outcomes of Artificial Nutrition (JAPOAN). JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2015;39(4):480-490.
doi:10.1177/0148607114522486 - Japan Geriatrics Society. Guidelines for the Decision-Making Processes in Medical and Long-Term Care for the Elderly – Focusing on the Use of Artificial Hydration and Nutrition. Geriatr Gerontol Int. 2018;18(6):823-827.
doi:10.1111/ggi.13441 - Changes in life expectancy and life span equality during the COVID-19 epidemic in Japan up to 2022. medRxiv. Published online April 19, 2024.
doi:10.1101/2024.04.18.24306049 - Trends in disability (2001–2019), chronic medical conditions (1996–2020), and mortality (1995–2020) in Japanese older adults: analyses based on national datasets. medRxiv. Published online March 6, 2025.
doi:10.1101/2025.03.06.25306049
まとめ:現実的な長寿戦略を
「人生100年時代」という一見美しいスローガンの背後には、複雑な現実があります。
- 提唱者は経済学者:最初から労働力確保が目的
- 健康寿命との格差:約10年間の「支援が必要な期間」が存在
- 生物学的限界:人間の最大寿命は120年程度
- 社会格差の影響:すべての人に当てはまるわけではない
- 延命治療の普及:「生かされた」状態での長寿の増加
重要なのは、100年生きることではなく、健康で自立した期間をいかに延ばすかだと私は思います。現実的な健康管理と予防的ケアを通じて、「質の高い長寿」を目指すことが、真の意味での豊かな人生につながるでしょう。
今回の記事では、私の主観・思想が強く入った内容になったかと思います。ただ、「人生100年時代」という言葉の裏にはさまざまな要因があることを前提とし、私は整体師として目の前の方のお体を整えるだけではなく、人生を一緒に考えていきたいと思っています。
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