
ストレッチやセルフケアを教わったけど、ついサボっちゃうのよねぇ…
整体の効果が長持ちしないのは整体の技術そのものに問題があることもありますが、お客様からのご相談には「意志が弱くてセルフケアや日常生活の改善が続かない…」というものもあります。このような「分かっているのに続けられない」「やる気はあるのに習慣にならない」というお悩みは多く、中には自分を責めてひどく落ち込んでしまう方もいらっしゃいます。
私自身もサボり癖があるのでお気持ちはとても分かるのですが、いろいろと調べていくうちにわかったことは、習慣化できない原因は意志の弱さではなく、人間の行動原理を理解していないことだということでした。
先日、映画館で『国宝』を鑑賞し、原作小説を読んで学んだのは「日常の中に芸がある」という境地です。これと同じように、真の健康も日常生活そのものに宿ります。今回は、行動科学や運動学習科学の知見をもとに、誰でも実践できる習慣化メソッドについてお伝えします。
もくじ
私の体験:「続かない」患者から学んだ真実
実は私自身、理学療法士になって数年間、「患者さんがセルフケアを続けてくれない」ことに悩んでいました。丁寧にストレッチやセルフマッサージを指導し、姿勢改善のアドバイスをし、次の来院時に確認すると「忙しくて…」「忘れてしまって…」という返答の繰り返し。当時(20代前半)の私は「もっと分かりやすく説明しなければ」「もっと強く動機づけしなければ」と考え、時に熱くなって厳しい言葉を投げつけるようにしてしまうことがありました。今ではとても反省しています。
しかし、ある患者さんの言葉が私の考えを根本から変えました。

先生、私だって良くなりたいんです。でもね、家に帰ると忙しいとか、何か言い訳をしてしまう自分がいるの。それに、いざやろうとすると何をどうやればいいかとか分からなくなってしまうの。意志が弱いって分かっているけど、どうしたらいいのかなぁ。
このように率直に言っていただいたお陰で気づけたのは、患者さん自身も「良くなりたい!」と心から思っているということ。つまり、問題は患者さんの意志の強さではなく、私の伝え方にあったということでした。
転機:行動科学との出会いが変えた指導法
その後、行動科学や運動学習の研究を深く学び始めました。分かったことは
- 習慣化は意志力の問題ではなく、環境設計と仕組み化の問題
- 学習した技能は文脈に依存し、異なる環境では発揮されにくい
- 人間の行動は感情、環境、身体状態が複雑に絡み合って決まる
この知見をもとに指導法を変更したところ、セルフケアを継続してくださる方が明らかに増えました。さらに操体法で学んだ「5つの生命活動のバランス」という視点を加えることで、より根本的なアプローチが可能になったのです。
なぜセルフケアが習慣化できないのか?3つの科学的根拠
ここではまず、教わったセルフケア(ストレッチやセルフマッサージなど)が続けられない3つの理由についてまとめます。
問題1:文脈特異性という学習の壁
運動学習科学における「文脈特異性」とは、特定の環境で学習した技能が、異なる環境では発揮されにくい現象を指します。
整体院で起こる学習の特徴:
- 整体師の指導下での安心感
- 静かで集中できる環境
- 「整体の時間」という特別な意識
- 痛みや不調への集中した注意
日常生活での現実:
- 仕事や家事などの多重タスク
- 騒音や中断のある環境
- 時間的プレッシャー
- 身体への意識が散漫
研究によると、学習した運動スキルの約90%は学習時の文脈に依存します。つまり、整体院で完璧にできても、日常生活で実践できないのは、ある意味で当然の現象なのです。

問題2:意志力に頼った間違ったアプローチ
多くの方が「続けられないのは意志が弱いから」と考えますが、これは科学的に間違いです。
意志力の限界:
- 意志力は有限のリソースで、使うたびに消耗する
- ストレス、疲労、空腹時には著しく低下
- 他の判断や我慢に使われると枯渇する
成功する人の実態:
- 意志力に頼らず、環境と仕組みで行動を自動化
- 「頑張る」ではなく「自然にできる」状況を作る
- 小さな習慣を積み重ねて大きな変化を実現

問題3:5つの生命活動の見落とし
従来のアプローチは、痛みのある部位や特定の症状のみに焦点を当てがちです。しかし、操体法で重視される5つの生命活動を無視すると、根本的な改善は困難とされています。
見落とされやすい相互作用:
- ストレス(想)→ 呼吸が浅くなる(息)→ 筋緊張増加(動)
- 不規則な食事(食)→ 血糖値不安定→ イライラ(想)→ 姿勢悪化(動)
- 職場環境の問題(環)→ 慢性疲労→ すべての活動に悪影響

操体法が教える「根本改善に必要な5要素」
操体法という整体法・健康法では、健康は以下に挙げる5つの「自分でやるほかがない生命活動」のバランスで決まると考えています。
1. 息(呼吸)
重要性: 自律神経調整、血液循環、筋緊張コントロールの基盤
日常での問題と改善方向:
- 問題:デスクワーク中の浅い胸式呼吸、ストレス時の息詰まり
- 改善:腹式呼吸の自動化、動作と呼吸の協調

2. 食(栄養・食事)
重要性: 筋肉の回復、神経伝達物質の材料、炎症コントロール
日常での問題と改善方向:
- 問題:不規則な食事時間、炎症促進食品の過剰摂取
- 改善:抗炎症食品の選択、規則的な食事リズム

3. 動(身体の使い方)
重要性: 筋骨格系の健康維持、血流促進、代謝向上
日常での問題と改善方向:
- 問題:長時間の同一姿勢、偏った動作パターン
- 改善:多様な動きの統合、適切な負荷配分

4. 想(精神活動・感情)
重要性: ストレス反応、筋緊張、自律神経への直接影響
日常での問題と改善方向:
- 問題:慢性ストレス、ネガティブ思考の反復
- 改善:適切なストレス処理、感情の健全な表現

5. 環(環境)
重要性: 他の4要素すべてを左右する土台
日常での問題と改善方向:
- 問題:身体に負担をかける職場環境、人間関係のストレス
- 改善:身体に優しい環境設計、支援的関係性の構築

同時相関相補連動性
これら5つの要素は独立しているのではなく、相互に影響し合い、補完し合いながら全体的な調和を保つことが重要です。一つを改善すると他の要素にも良い影響が波及し、逆に一つが崩れると全体に悪影響を与えます。

セルフチェック:あなたの習慣化阻害要因を特定
ここで、あなたの習慣化を阻害する要因を特定していきましょう。

文脈特異性チェック
□ 整体院では姿勢を保てるが、職場では猫背になる
□ 教わったストレッチを家でやったことがない
□ 「治療の時間」以外は身体を意識しない
□ 習った動作を日常動作に応用したことがない
□ 環境が変わると体の調子も変わりやすい
意志力依存チェック
□ 「頑張って続けよう」と意気込むが三日坊主になる
□ 疲れている日はセルフケアをサボってしまう
□ 完璧にできない日があると罪悪感を感じる
□ 他のことで忙しいとすぐに習慣が途切れる
□ 「やらなければ」というプレッシャーを感じる
5つの生命活動バランスチェック
息(呼吸):
□ 日中、呼吸が浅くなることが多い
□ ストレス時に息を詰めてしまう
□ 深呼吸を意識することがほとんどない
食(栄養):
□ 食事時間が不規則になりがち
□ 炎症を促進する食品を頻繁に摂取
□ 水分摂取量が不足している
動(身体の使い方):
□ 1日の大部分を同じ姿勢で過ごす
□ 運動習慣がない、または偏った動きばかり
□ 朝起きた時に身体が固まっている
想(精神活動):
□ 慢性的なストレスを感じている
□ イライラや不安を感じることが多い
□ リラックスする時間がほとんどない
環(環境):
□ 職場環境が身体に負担をかけている
□ 人間関係にストレスを感じる
□ 生活リズムが不規則になりがち
以上の項目のうち、チェック数の多いカテゴリーが、重点的な改善ポイントです。
科学的習慣化メソッド:3つのPhaseで確実に定着
ここからは科学的な観点で、習慣化していくメソッドをご紹介します。

Phase 1:環境設計と仕組み化(1〜2週間)
目標: 意志力に頼らず自然に行動できる「仕組み」を作る
1. トリガー(きっかけ)の設定
- 既存の習慣に新しい行動を紐付け
- 例:「歯磨き後に深呼吸3回」「トイレ後に肩回し」
- 例:「信号待ちで姿勢チェック」「エレベーター内で体幹意識」
2. 環境の最適化
- 行動のハードルを最大限下げる
- ストレッチマットを常に見えるところに配置
- 姿勢チェックのメモをモニターに貼る
- 水のボトルをデスクに常備
3. 最小限の行動設定
- 「1分だけ」「1回だけ」から始める
- 完璧を求めず、「やっただけでOK」の基準設定
4. 可視化システム
- できた日をカレンダーにマーク
- スマホアプリでの習慣トラッキング
- 家族や友人との進捗共有
Phase 2:マイクロプラクティスによる統合(3〜4週間)
目標: 様々な場面で自然に実践できるよう文脈を拡張
1. 多様な環境での練習
- 自宅、職場、移動中など様々な場所で実践
- 異なる時間帯(朝・昼・夜)での習慣化
- 様々な服装や条件での適応練習
2. 日常動作との統合
- 起床時:ベッドの中で背伸びと深呼吸
- 通勤中:電車内での体幹意識、歩行時の姿勢チェック
- 仕事中:1時間ごとの姿勢リセット、会議前の深呼吸
- 就寝前:簡単なストレッチとリラクゼーション
3. 5つの生命活動の統合
- 呼吸法と姿勢改善の同時実践
- 栄養面での意識と身体感覚の連動
- ストレス管理と身体ケアの組み合わせ
- 環境調整と習慣実践の相乗効果
Phase 3:自然な日常化と維持(2〜3ヶ月)
目標: 意識しなくても自動的に良い行動が継続される状態
1. 習慣の統合と発展
- 複数の小さな習慣を組み合わせたルーティン作成
- 季節や生活の変化に応じた柔軟な調整
- より高度な身体意識への発展
2. セルフモニタリング能力の向上
- 身体の微細な変化への気づき向上
- ストレスや疲労の早期察知
- 自分に合った調整法の確立
3. 継続的な改善システム
- 月1回の振り返りと調整
- 新しい要素の段階的導入
- 長期的な健康目標との連動
「続かない」を解決する12の実践テクニック

でもいろいろ試したけど、結局続けられないのよ…。
そんな方のために、「続かない」を解決する12の実践テクニックを具体例を挙げながらご紹介します。全て実践するのではなく、ご自身にとって取り入れやすいものを見つけて実践してみてください。
環境設計系テクニック
1. 行動プロンプト法
- スマートフォンのロック画面に姿勢チェックの画像
- 鏡を見るたびに姿勢確認するルール
- デスクのペンに「深呼吸」のシールを貼る
2. 物理的に環境を調整する
- 椅子の高さを少し不安定にして姿勢意識を促す
- 水のボトルを遠くに置いて立ち上がる機会を増やす
- エルゴノミクス製品(人間の身体的・精神的な特徴に合わせて設計された製品)の活用
行動設計系テクニック
3. ハビットスタッキング法(すでに存在する習慣の直前、または直後に新しい習慣を組み合わせることで、新しい行動を無理なく定着させる方法)
- 「コーヒーを淹れた後は肩甲骨を動かす」
- 「メールチェック前には背伸びをする」
- 「テレビをつけたら足首回し」
4. 2分ルールを設ける
- 新しい習慣は2分以内で完了できるものから始める
- 「ストレッチ20分」ではなく「ストレッチマットに座る」
- 「完璧な姿勢1時間」ではなく「姿勢を意識する」
心理学系テクニック
5. 実装意図法
- 「もし○○が起きたら、△△をする」の形で計画
- 「もし肩こりを感じたら、肩甲骨を3回回す」
- 「もし疲れを感じたら、深呼吸を5回する」
6. 進歩記録法
- 完璧でなくても「やった」回数をカウント
- 小さな改善も見逃さず記録
- 継続日数ではなく実施回数に注目
社会的サポート系テクニック
7. アカウンタビリティパートナー(伴走者を作る)
- 家族や友人に習慣化の宣言
- 定期的な進捗報告
- 互いに励まし合う関係性の構築
8. ソーシャルプルーフ活用
- 同じ目標を持つグループへの参加
- SNSでの進捗共有
- 成功事例の積極的な収集
認知・感情系テクニック
9. セルフコンパッション
- できなかった日も自分を責めない
- 「また今日から始めよう」の心構え
- 完璧主義を手放し、進歩を重視
10. 身体感覚活用法
- 良い姿勢の時の身体感覚を記憶
- 改善した瞬間の感覚に注目
- 身体からの「ありがとう」を感じる
調整・メンテナンス系テクニック
11. 計画的挫折回復
- 3日坊主になることを前提とした計画
- 中断後のリスタート手順を事前に決定
- 「失敗」ではなく「学習機会」として捉える
12. 定期的な見直しシステム
- 週1回の5分振り返り
- 月1回の方法調整
- 季節ごとの大幅見直し
重要な注意事項:安全で効果的な実践のために
セルフケアの実践は大切ですが、安全なことが前提です。以下の3つの視点で安全かどうかの見極めをするようにしてください。

身体的安全に関して
- 痛みを伴う動作は即座に中止し、必要に応じて医療機関を受診
- 既存の疾患や怪我がある場合は、事前に医師に相談
- 体調不良時は無理をせず、身体の声に従う
精神的安全に関して
- 完璧主義に陥らず、段階的な改善を心がける
- ストレスや精神的な症状が悪化した場合は専門家に相談
- 自己判断に迷った場合は、信頼できる医療従事者に相談
継続性に関して
- 一度に多くのことを変えようとしない
- 個人差があることを理解し、他人と比較しない
- 長期的な視点を持ち、短期間での劇的な変化を期待しない
よくあるご質問
ここからはよくある質問に対する回答をご紹介します。これまでの復習代わりにもお読みください。

- Lally P, van Jaarsveld CH, Potts HW, Wardle J. How are habits formed: Modelling habit formation in the real world. Eur J Soc Psychol. 2010;40(6):998-1009. https://doi.org/10.1002/ejsp.674
- Gardner B, Lally P, Wardle J. Making health habitual: the psychology of ‘habit-formation’ and general practice. Br J Gen Pract. 2012;62(605):664-666. https://doi.org/10.3399/bjgp12X658287
- Barnett SM, Ceci SJ. When and where do we apply what we learn?: A taxonomy for far transfer. Psychol Bull. 2002;128(4):612-637. https://doi.org/10.1037/0033-2909.128.4.612
- Gollwitzer PM, Sheeran P. Implementation intentions and goal achievement: A meta-analysis of effects and processes. Adv Exp Soc Psychol. 2006;38:69-119. https://doi.org/10.1016/S0065-2601(06)38002-1
関連記事
今回の記事ではセルフケアなどの習慣化に関することを書いてきました。同時に、日常生活の重要性もお伝えしてきました。日常生活では呼吸、食事、姿勢・運動、精神活動、そして環境が重要です。過去に書いた記事をいくつか挙げておきますので参考になさってください。
まとめ:日常そのものが最高の治療になる
セルフケアの習慣化ができない1つの原因は、意志の弱さではなく科学的な習慣化の方法を知らないことにあります。
今回のポイント:
- 文脈特異性を理解し、様々な環境での練習を心がける
- 意志力に頼らず環境設計と仕組み化で自然に継続できる状態を作る
- 操体法の5つの生命活動を統合的に改善する
- 段階的なアプローチで無理なく習慣化を進める
- 完璧を求めず継続を重視し、中断しても必ず再開する
ところで先日、映画「国宝」を鑑賞したのですが、その中で描かれていたのは「日常の中に芸がある」ということです。真の健康は特別な時間や場所だけでなく、日常生活の一瞬一瞬とその継続の結果に宿るものだと思います。
整体によるお悩みの解消も確かに重要ですし、整体でしか得られない効果もあることでしょう。そして、それを活かし、発展させるのはあなた自身の日常的な実践です。科学的な習慣化の方法を身につけることで、あなたの毎日そのものが「最高の整体」となるでしょう。
神奈川県伊勢原市の整体院すいっちでは、整体施術とともに、科学的根拠に基づいた習慣化サポートを提供しています。「今度こそ本当に変わりたい」「健康を維持できる生活習慣を身につけたい」という方は、ぜひお気軽にご相談ください。あなたの日常そのものが、最高の整体となる日を目指して、一緒に歩んでいきましょう。
ぜひ、以下の画像をタップして当院のホームページもご覧になってみてください。




























整体を受けた直後は体が軽いのに、数日後にはまた元の痛みが…